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シリーズ
−P

「どっち。」
「え?」

声をかけられて顔をあげると、零時さんが僕を見ていて。
僕が首を傾げると、並んだ二つのカップを指さした。

「どっちがいいんだよ。」
「え!?いや、零時さんが、まず、選んでくださ」
「いいから選べっつてんだろうが」
「す、すみませんお手数おかけしますありがとうございます苺がいいですー!」

射抜かれるような眼光で見下ろされれば、震える声で答えるしかできなくって。
零時さんはそんな僕を見ながら、ふぅん、と呟いただけで、すぐに抹茶のカップを取り、ふたを開けて食べ始めた。
それを見ながら、僕もおずおずと残ったもう一個のカップを手に取り、恐る恐るふたを開ける。
中を見ると毒々しくない自然な色の桃色が見え、甘い香りが鼻をくすぐり。
美味しそうだとは思うけれど、余りにも貧乏な僕には縁がなさすぎて、なんだか食べることに躊躇してしまう。
・・・こんな高級なもの食べて、僕、おなか壊したりしないかな・・・。
賞味期限をちょっと過ぎたくらいではものともしない僕の鉄の胃袋だが、こういうものはどうなんだろうか。
そんなことを訥々と考えていたのだが、表面がうっすらと溶け始めているのが見えて、慌ててスプーンを入れた。
そして一掬い、恐る恐る口に入れる。
すると、甘みと冷たさと、ほのかなストロベリーの味がして、そのおいしさに驚く。
思わずまじまじとカップを見つめなおしてしまうが、さすがハーゲン様は違うな、と感心するばかりだ。
でもやっぱり、高級な味はおなか壊しそうだなぁと、恐る恐る口に運んでいると、視線を感じたので顔をあげる。
するとそこには、なんだか微妙な表情をした零時さんが、僕を見ていて。
僕は思わず、アイスを掬うスプーンの動きを止めた。

「・・・な、なんでしょうか、零時さん。」
「・・・美味しくねぇの?」
「え?」

微妙な表情をしたまま口を開いた零時さんに首をかしげたが、すぐに今、手に持っているモノの話だと気づいて、慌てて首を振る。

「お、美味しいです!美味しいですよ!?」
「・・・眉間に皺寄せて食ってんのにか」
「いや、そんな、なんというか、ハーゲンダッツなんてめったに食べれるもんじゃないから、美味しさにびっくりして・・・!」
「・・・あっそー」

カップを持ったまま身振り手振りまでして、自分のこの驚きを表現してみたのだけれども。
零時さんは微妙な表情のままため息をついて、再びつけっぱなしのバラエティー番組に視線を戻してしまった。

うぅん・・・なんだったんだろうか・・・。

力いっぱい広げていた両手をしずしずと戻し、首をかしげつつも再び慎重にアイスを口に運んでいると、ポツリ、と零時さんがつぶやいた。

「明日出かけっから」
「あ、はい、わかりました。お夕飯はどうしますか?」
「食う。っつーか、お前も一緒にでかけんだよ。」
「え、」

言われた言葉に、零時さんを見上げて固まった。
そんな僕を見ることもなく、テレビの画面を見たまま零時さんは平然と明日の予定について語る。

「服見に行く。ついてこい。」
「え、でも、僕は、」
「いいからついてこいっつってんだよ」
「はい!わかりましたー!!」

零時さんの言葉尻から不穏な空気を感じ取った僕は、思わず兵隊の様に背筋を正して返事を返し。
けれど、チラ、とこちらを横目で見た零時さんが、小さく笑ったのを見て、ほっと気が抜けて。

零時さんと出かけるなんて初めてだ。
なんで僕なんかと一緒に出かけるのかはわからないけれど、早くも明日が少し楽しみになってくる。
誰かと買い物に行くなんて久しぶりだし。
頼んだら、帰りにスーパーに寄ってもらえるかな。
お塩が切れたんだよね、そういえば。



僕はにやける顔を隠すために、大急ぎで残りのアイスを口にかきこんだ。



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あきゅろす。
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