シリーズ −O 「ポチアイス。」 「あ、はい。」 お風呂からあがると、先にお風呂から上がった零時さんが、再びソファに座ってテレビを見ていた。 こちらを向かないままかけられた声に、返事を返して冷蔵庫を覗き込む。 零時さんが今日買ってきたアイスは、ストロベリーと抹茶の二個で。 さすがに二個一遍に持っていっては、クーラーが効いているこの部屋といえども、一個食べている間にもう一個がとけてしまうだろうと思い、零時さんに声をかける。 「零時さん、抹茶とストロベリーどっち持っていきますか?」 「・・・あぁ?両方。」 「両方、ですか?・・・わかりました。」 溶けちゃうのになぁ、と思いつつも頷く。 二つのカップを重ねて、その上にスプーンを一本置き両手で持つ。 ソファに座る零時さんの、その目の前にあるガラスのテーブルの上に冷えたアイスを乗せた。 そしてそのまま今度はアイスコーヒーでも準備しようと、再びキッチンへと戻る。 「零時さん、コーヒー、アイスでいいですか?」 「んーあー、アイス食うからホットで。」 「わかりました。」 零時さんの返事を聞いて、エスプレッソマシーンをセットした。 そして淹れている間にカップの準備やら、明日の朝ごはんの仕込やらと、キッチンでばたばた動いていると、零時さんの不思議そうな声が飛んできた。 「おいポチ、スプーンが一本しかないぞ」 「え?零時さんが食べるんじゃないんですか?」 ひょっこりキッチンから顔をのぞかせて答えると、とたんに零時さんの眉間に皺が寄って。 僕は唐突に不機嫌そうな顔になった零時さんを見て、慌てて首をかしげた。 「あれ?え?でも・・・」 「俺が二個食うんじゃねぇよ。一個はお前の分。」 「え、えええええ!」 むっつりと顔をしかめたままの零時さんの言葉に、思わず大きな声をあげてしまった。 そんな僕の様子を見て、益々零時さんの顔がしかめられていき。 「アァ?なんか文句あんのかよ。」 「いや、そんな、めっそうもないです!あああありがとうご、ございますっ、」 支度が終わった僕は、出来上がったコーヒーを片手に、そしてもう一つのスプーンを持ってテーブルに戻る。 零時さんが座るその斜め前あたりで、床にペタリと座り込んだ。 床はフローリングだけど、テーブルの近くにはカーペットが敷いてあるし、クッションもあるので床でも気にならない。 と、いうか、零時さんの座るソファが幾ら3.4人掛けであっても、とてもじゃないけれどその隣になんて座れないというか・・・! 零時さんの邪魔にならない場所であろうここが、僕の定位置となりつつある。 テーブルには二つのカップアイスとコーヒカップが並んでいて、それを見てなんだかそわそわした気分になる。 だだだだって、零時さんが僕に買ってきてくれたって・・・! なんというか、お、恐れ多いっていうか・・・もったいないというか・・・。 ただでさえ縁のないハーゲンダッツが、より一層お高いものに見えてくるから不思議だ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |