シリーズ
−K
side:零時
この双子は交渉人を溺愛しており、交渉人に手を出せば、まず間違いなくこの二人からの制裁からは逃れられない。
交渉人が喧嘩も弱いくせにへらへらとこの地域を出歩いていられるのは、ヤツ自身の口車の上手さほかに、この二人の影響が大きいことは間違いないだろうな。
ちなみに今出会いたくないナンバー1は、交渉人自身だ。
…理由は言うまでもねーだろ。
「聞いてるよ、あの子から。」
「ちゃんと面倒みてっか?心配してたぜ。」
「ああもうウルセェな。とりあえず死んでねぇから、いいんじゃねぇの。」
運ばれてきたグラスを傾けながら、双子を睨みつけると、シンクロしたように双子は同時に肩をすくめて。
からかうような態度がかける二で、余計にイライラする。
チッ、と舌打ちをして、俺はテーブルの上に組んだ足を乱暴に乗せた。
そんな俺に、珪が懲りずに頭をかしげつつ、肩をすくめる。
「つか、マジでどしたんお前。えー・・・2週間ぶりぐらいじゃね?」
眉をひそめて心底不思議そうにしている珪を見て、どうやらこの問答から逃れられないことを悟った。
コイツは昔から、一度決めたことには異常なまでにしつこい。
ここでごまかそうとしても腐れ縁。すぐにばれてしまうだろう。
双子も新もいる場、って言うのが気にいらねぇが。
俺は深くため息をついて、口を開いた。
「・・・飯が。」
「は?」
「・・・・・・・・飯が美味ぇんだよ。」
俺は、ぐう、と唸りつつ頭を抱えた。
そう最近の、俺の外出の少なさは、なにを隠そう、家の飯が美味くて、それ食べたさにうっかり家に帰ってしまうという、なんとも食い意地の張った理由からだった。
初日の朝食からして、俺の好みドストライクだった。
炊き立ての白い御飯に、シジミの味噌汁、それと焼き鮭。
いい香りを漂わせるそれらを呆然と見ていた俺に、ポチは、
「とりあえず和食にしてみたんですけど・・・、洋食派でしたか?」
と、やっぱりおどおどとした態度を崩さずに、あの黒い目で見上げてきたのだった。
味もうまかった。申し分ない。
もともと朝は和食派なのだが、自分作ることはできず、だからといって作ってくれる女がいくらいても他人を部屋に入れるのも嫌で、結局あきらめてパンにコーヒーといった簡素なものになっていて。
久しぶりの和食を腹いっぱい食べてしまったことに気がついたのは、完食した後のお茶を飲んでいるときだった。
ちなみにそのお茶も、俺が食い終わる頃を見計らってポチが淹れたもので、これも美味かった・・・チクショウ。
そしてその後の昼食も夕食も。
どれもこれも「これは男子高校生の腕前か?」というほどに美味く。
決してレストランのシェフの様なプロの美味さはないが、どれも家庭料理のような素朴な味わいがあって。
長らくそんな味から遠ざかっていた俺には、酷くそれが美味しく感じた。
その上、ポチの味付けは絶妙に俺好みだったんだよ。
恐ろしいほどに。
外で食べるよりも断然うまい食事に、次の日も、その次の日も・・・とやっているうちに、今日になってしまった。
ちなみに今日は、ポチが母親を探しにちょっと出かけるってんで夕飯がなかったため、久しぶりにここにやってきたというわけだ。
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