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シリーズ
−J

side:零時

見慣れた年代物の扉を開けるとそれは、キィ、と軋んだ音をたてて。
ドアの中から覗いたかすかな酒の香りと喧騒の中に、俺は体を滑りこませた。

「あれ一陣さん!久しぶりじゃないですか?」
「あ、零時さん!おはようございます!」
「わ、久しぶりに見た気が。おっすー」

すぐさまかかってくる、お決まりの声。
適当に手を振って返事代わりにして、俺は自分の定位置である店の奥に置いてある三人掛けのソファに座った。
するとすぐさま向かいのソファに、うちのチームのブレーンである新と、所詮幹部と呼ばれる存在の一人、兼、俺の幼馴染である坂木珪(さかきけい)が、自分のグラスを片手に座ってきて。

「零時、久しぶりじゃねぇか。何してたんだ?相変わらず犬探しか?」
「別にそんなんじゃねぇよ」

グラスを傾けつつにやにやとした笑いを向けてくる珪に、舌打ちをして返事を返す。
確かにチームのホームであるここに来るのは、久しぶりな気がする。
それもこれも最近、俺が夜になるとすぐ家に帰っていたからなのだが。
あまり触れてもらいたくないところにさっそく噛み付いてきた腐れ縁を睨みつけるが、この幼馴染には全く効かず。
俺達にはもう一人の腐れ縁がいるが、今日は不在のようでまた舌打ちをする。
アイツがいなきゃ、コイツが調子乗ってるのを諌めるやつがいないじゃねぇか。
昔馴染みのせいか、言いたいことがすぐ伝わるのはいいが、こういうところに遠慮がないのが面倒くせぇ。
しかも、こいつの性格も正直面倒くせぇ。
珪と不穏な空気でにらみ合っていると、愛用のノートPCを覗き込んでいた新が顔をあげた。

「家に滅多に人を招かないアンタに、新しい同居人ができたって聞きましたよ、俺は。」
「はぁ!?マジでか!!」
「黙れ新。」

新の言葉に、思わず舌打ちをする。
クソ、一番聞かれたくないやつの前で、余計なこと言いやがって。
コイツは、俺が珪に一番聞かれたくないのを知っててやってるから、余計癪に触る。
案の定、体を乗り上げ目を輝かせた珪が迫ってきて、俺は内心頭を抱えた。
ああ、面倒くせぇ。

「お前に同居人!?ありえねぇー!女か?いや、女も部屋に上げたがらなかったよな、お前。」
「うっせぇな。交渉人からの預かりもんなんだよ。」
「えぇー、俺を誤魔化すための嘘じゃないだろうなぁ〜。」
「ウゼェ、本人に聞いてみればいいじゃねぇか。」
「そうするー。ねぇ、ほんと?なっちゃん。」
「あぁ?」

突然珪がくるりと背を向け、ソファの背もたれに手をかけながら背後のカウンターへと声をかける。
するとそこには、入ってきた時には気がつかなかったが、二人の長身の男がいた。
その二人の男がこちらを振り返った時、俺は思わず思いきり顔をしかめた。

「よっ、零。」
「お邪魔してるよ。」
「・・・来てたのか、双子。」

そこに腰かけていたのは、このあたりでは知らないチームはない、美形の双子の兄弟。

どこのチームにも属さずフラフラと気まぐれにあっちこっちに行くが、それが許されているほど喧嘩は恐ろしく強く。
しかし二人とも悪いやつじゃねぇし、俺も嫌いな存在じゃぁねえっつーので、自分のホームにいてもさして気にはならないのだが、今の俺にはいてもらいたくない人物ナンバー2だ。

この双子、喧嘩が強いのでも有名だが、もう一つ有名なことがある。


”交渉人”の保護者。
それがこの二人のもう一つの顔だ。




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