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「長男じゃなくてもいい場所、だからじゃないの。」
「・・・え?」

顔をあげて、一実が僕を見た。

「一実がいっぱいいっぱいになったのって、家族を守りたかったからじゃないの」
「・・・まぁ、」
「そんだけたくさん家族いてさ、頼られることはあっても、頼れなかった?」
「・・・・・・」
「『黒』はさ、こんなこというと子どもっぽいけど・・・皆大人なんだよな。」

だから、安心できたのかもね。
あの場所で安心って言うのも、不健康すぎていかがなものかとも思うけど。

黒さんと「安心」という言葉が似合わな過ぎて、自分で言いながら噴き出してしまった。



「俺は、金が欲しい」

ふいに響いた言葉に、思わず一実を見つめると、一実はまっすぐに前を見つめていた。
その視線はひどく真剣で、鈍い色を灯して。

「俺の両親は天涯孤独みたいなものだったからさ、ほんと、結構つらい思いもした。弟たちにはそんな思い、させたくないんだよ。母さんにも楽をさせてやりたい。だから、その近道として鷺ノ宮への進学を選んだんだ。一流企業への進学率もいいし、何より特待は金がかからない」

でも。
一実のはっきりと自身に満ち溢れた揺るがない声が、一瞬震える。

「けど、最近思うよ。ただ単に俺は、俺を蔑んだやつらに復讐したいだけなんじゃないかって。自分がソイツらの上に立って、見下したいだけなんじゃないかって。それって、俺が嫌いな金持ちのやつらと、同じことしてるだけなんじゃないかって、さ。」

なるほど、一実がアザレを苦手とする理由の一端が見えたような気がした。

難しい話だなぁとおもう。
けれど一方で、そんな難しく考える必要もないんじゃないかなぁとも思う。
復讐とか、見下したいとか。
ものごとを多面的にとらえてしまえば、そんなこと幾らでも出てくるのだ。
もっとシンプルに考えればいいのに。

心中唸っていた僕の耳に、一実の大きなため息が聞こえた。


「なんだか・・・なにが一番いいのか・・・・・・もう、わからないよ。ほんと。」


聞こえてきたのは、珍しく弱り切った声で。
僕は、じつ、と一実を見つめたけれど。
一実は痛みをこらえるような表情をしながらも、ただ目の前の暗闇をひたすらに見つめ続けて。

それから。
一実は家につくまで、僕によりかかることもなければ、助けを求める言葉が夜の生ぬるい空気に溶けることもなかった。


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あきゅろす。
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