4-13
「黒さん!黒さん!普通にこの高さ、体が震えるんですけど!」
「じゃあじっとしてろ」
「つか、降ろしてください!」
「却下だ」
高さに足が震えて、立つことすらままならない。
今まさに僕の足は、生まれたての子羊ようです。
めっちゃぷるぷるする。
嬉しくないし、かわいくもないけどな!
半べそになりながらも、必死に下に呼びかける。
「さ、早苗さーん!早苗さん助けてー!」
少し離れた場所で煙草に火をつけている早苗さんを、上から見つけて声をかけるけれども。
ほのぼのと華やかなその人は、ニッコリ笑って手を振り。
「まぁまぁ、大丈夫、大丈夫。」
「今現在進行形で、大丈夫じゃないんですけどー!」
サドばっかか、この空間!
周囲に点在する黒の幹部らしき人たちには、何故だか心なしか温かい眼差しを向けられて。
ち、血も涙もないアンダーグラウンドなチームのくせに!
黒さんだけに忠誠を誓って、他の人間なんで塵とも思ってないくせに!
なんだその成長した子供を見るような、暖かな眼差しは・・・!
「てかそもそも、なんでこんなとこに連れて来られなきゃ行けないんですか・・・僕が何をしたってんだい!てやんでぃ!」
「お前は、逃げられる場所を与えておくと逃げるだろう。・・・逃がさねぇよ。」
やけっぱちで叫ぶと、一番下まで降りてしまった黒さんが、口の端をあげてこちらを見上げているのが見えた。
「いやいやいや、逃げませんよ。逃げませんて。」
「キツネ、それは説得力無いよ〜。」
真顔で首を振るも、ゆるゆるとした早苗さんの声が返ってきて。
僕は押し問答のようなやり取りに、腕を組んで首をかしげる。
「僕、逃げたことなんて・・・・・・あ。・・・いや、な、ない、です、よ?」
「今、思い当たる節がすごい出てきたでしょ。嘘ついちゃいけないよ、嘘ついちゃ。」
ふと、うっかり巻き込まれた闘争からすたこらと逃げ出した過去の思い出たちが駆け巡り、返答が鈍ったのを早苗さんが見逃してくれるはずもなく。
「あ、あれは、皆さんの邪魔になってはいけないと思ってですね・・・」
「いっつもそのまま帰っちゃうんだよなぁキツネは。巻き込まれて怪我してないかって心配で、俺達毎回すごい探すのにさ。」
「ちょーすみません」
土下座するしかないよね、もう。
まぁコンテナの上で土下座しても、僕の頭、早苗さんたちのはるか上にあるんだけど。
うん、これは土下座になってないね。
「いつものソレは許してやってもいいが、今回のは許せねぇな。」
響いた低い声に黒さんのほうに視線を向ける。
黒さんは無表情のまま、まっすぐに僕を見上げていて。
黒さん、人を見上げるのなんて嫌いなくせに。
人に上から見下ろされるのなんて、その人を殴りつけてでもやめさせる癖に。
誰よりも他人が自分の上に立つことが許せない人間に、見あげられているというこの状況。
そのことに優越感よりも変な居心地の悪さを感じて、もぞもぞと体を揺すった。
「お前は、そのくらい逃げ道を塞いでおかないとだめだ。安心できない。」
淡々と紡がれたその言葉に、釈然としない気持ちで頭をかいた。
どんだけはねっ返りだと思われてんですかね、僕。
学校でできた友達に比べたら、大人しいもんだよ〜。
東山とか、アザレとか、アザレとか、アザレとかね!
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