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犬馬の心






「……貴方はこの世界に性行為を神聖なものと考えている人がどれほど居ると思っているんですか?」

それまで変わらずに淡々と話していた先輩の顔が悲痛に歪む。

「友達だと思っていた人が、突然変貌するんです。…欲を満たす為に親友すら襲うんですよ?」

「…んな…」

俺は驚きを隠せなかった。
言葉を続ける先輩の顔があまりにも悲しみに満ちていたから。

「……俺は……」

そのあとに続く言葉が何も出てこない。
俺にはセックスの経験もないし、男を襲う心理も理解出来ない。
自分を見失う程の欲に駆られた事もないのだから。


頭がパンク寸前だ。

「…チッ」

苛立ち、目の前の物事から逃げるようにこの場を去ろうと背を向けた。

「何処に行くんですか?」

「…部屋に帰んだよ」

「言いたくはないですけど……僕も嫌な体験をしました。体が大きくて力のある君には分からないでしょうけど」

「……だから、何だよ」

「おそらく、彼もそんな経験があるはずです。それも1度や2度ではないと思います。彼がどういう価値観を持った方かは分かりませんが、彼の様に人を惑わす容姿を持つものは例え校内だとしても1人で歩くのはあまり良い事ではない、ということです」

強姦されて嫌な思いをしない人は居ないでしょ?と続けた先輩の真剣な表情と声に、いつだったか疲れ切って帰ってきた蘭を思い出した。
蘭の頬にあったうっすら赤く腫れて殴られた蹟も…。

「……クソッ…」

半ば自棄になって廊下に胡座をかいた。

(帰るに帰れねーじゃねぇか)

それを見届けて先輩は去っていった。






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あきゅろす。
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