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犬馬の心







パッとドアから離れた。顔が熱くなるのが分かる。

(…なに…、やってんだ…アイツ…)

耳にこびり付いて離れない甘い声。
耳を押さえて赤面する俺とは違い、相変わらず落ち着いた様子の先輩は未だに聞き耳を立てている。その顔はどこか納得したように満足げだ。

「やはり、そうでしたか」

(何が“やはり”なんだよ…!!どういう事なんだ!?!?)

先輩はパニくる俺の腕を掴み、あろう事かドアをうっすら明けて中を覗くように促した。

「ちょうどいい。君にも証言して貰います」

「マジやめろって!!」

先輩だと言うことも忘れて今出せる最大のヴォリュームで悪態を吐く。
しかし、不意に引っ張られた所為でよろけた俺は先輩に抱きつく形で壁に押し付けてしまい、その位置ではドアの隙間から、部屋の様子を視界に映せてしまった。
つまり、部屋の中の様子がばっちり見えちまったって事。



ベットの上だった。裸で男に跨り、弓なりに背中を反らす蘭の姿。
あの栗色のふわふわした髪が揺れていた。
あのクリームチーズのように白くて、柔らかい肌が薄く紅潮していた。

しばらく目が離せなかった。興味本位の見たさじゃない。衝撃的すぎて動けなかったんだ。
漸く体が動いたのは壁に押し付けてしまった先輩の「…ッ…」と言う息を詰めた微かな声が耳に届いたからだった。
思考が停止していた俺はハッとして先輩の腕を無理矢理掴むと強引に部屋を出た。



部屋を出るや否、苛立つ感情に任せて壁を殴りつけ、先輩を怒鳴る。

「アンタ、何やってんだよ!!」

「仕事です」

「無断で生徒の部屋に入んのが仕事かよ!?」

「そういう意味ではありません。そんなことより、君は猫西君の何ですか?その様子ですと何も知らなかったようですし」

先輩の事務的な話し方が俺の高ぶった感情を余計に逆なでする。

「俺はただのルームメイトだ」

“ただのルームメイト”かは定かではないけれど、それが妥当な気がした。
疑うような先輩の眼差しが俺を見つめる。

何なんだよ!!意味わかんねーよ!!先輩の態度も、何も言わねぇ蘭も、すっげぇムカツク!!!
思わず、先輩のワイシャツの襟を掴む。チャリッと金属音がして先輩のネックレスが揺れた。





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