愛と嘘と謎と罠 A 校庭のテントにて

 夕暮れで島の四角錐山から満月が昇り、キャンプ設置の終わった軍医タコたちが、夕食のバーベキュー〔BBQ〕準備をしていると、空から天狗裸女が降りてきた。
「遅れてすまん、遺跡の中で時間が経つのも忘れて、会話が弾んでしまってのぅ」
 輪切りにしたトウモロコシを触手で、バーベキュー串に刺しながら軍医タコが天狗裸女に訊ねる。
 ちなみに紫郎は隊長タコが詰まったボックスを抱えたまま、バーベキューの準備も手伝わず……キャンプ用の折りたたみ椅子に惚けた顔で座って、口から半分魂が抜け出た状態のままだ。
「どうやら、遺跡で何か収穫があったようですね」
「うむっ、これはタコさんに直接見てもらった方がいいじゃろう……雨風に晒されないようにテントの中に出すとしよう」
 そう言うと、鼻高々な天狗裸女はテントの中で、腰に提げた朱塗りのヒョウタンの栓を抜いて、ヒョウタンの底をポンッと軽く叩いた。
 ヒョウタンの中から、遺跡で発見した宇宙人のクローンカプセルと、カプセルの上に腰かけた呪術師少女の残留思念が現れた。
 尻目と破華姉ぇ、それと魂が抜けかけている紫郎がなんとなくテントの中を覗く。
《ちぃーす、あっ天狗さんが言っていた。本当にオレンジ色のタコだ》
 軍医タコに天狗裸女が、かくかくしかじかと遺跡内での経緯を説明する。

「なるほど、宇宙人が残した培養クローンカプセルと、古代王朝の呪術師の残留思念ですか……あなたでしたか、島に『鬼畜の呪い』をかけたのは。なんでも高貴な男性とのセックスで、男性のセックスに愛が無かったコトに『悲恋して、悲しみから呪いをかけて断崖から海に身を投げた』とか『呪いをかけたら、天罰で鬼女に変わり村人を喰らった』とか伝わっていますが?」
《あ、それな……歪んで後世に話が伝わっていて正直迷惑しているのよ。あたし悲恋で絶壁から海に身投げしたり……鬼女になって人食べたりしていないから。王族の三流男が優柔不断男で、あたしのコトを本気で愛していないくせにエッチしたから。頭にきて衝動的に、島に呪いをかけたのは本当だけど》
「衝動的に呪い……ですか」
《そっ、この呪術ステッキでチョイチョイと、軽い気持ちで》
 呪術師はどこからか、先端にハート型が付いた。魔法少女が使うようなアイテムを取り出した。
《この呪術ステッキで『この島で愛の無いセックスをする人は、鬼畜な動物さんになっちゃえ! 綺羅綺羅綺羅』って軽い気持ちで呪いをかけたの……あたしとしては、死後半年か一年で呪いの効力は消えるはずだったんだけれどね……いやぁ、千年も呪いが続いていたのは予想外だった。失敗、失敗……てへっ》
 呪術師は舌をペロッと出すと、軽く自分の頭を叩いてみせた……どうやら「てへっ」は、なんでも許される免罪符だと呪術師は思っているらしい。
 クローンカプセルに近づいた軍医タコは、カプセル表面に落書きのように書かれている宇宙語の文字を読む。
「なるほど、訪れていた宇宙人の種属はわかりませんが。どうやら『裸族人類』を作ろうとして上手くいかなかったので、島から撤退したみたいですね……中古のクローン装置ですが、ありがたく使わせていただきましょう……それにしてもテントのスペースが一人分狭くなってしまいましたね。天狗裸女さんはテント近くの樹上の方が寝るには落ち着くと言ってくれましたが、それでもテント内に一人分のスペースを開けないと女性には窮屈に感じますね」
 軍医タコは紫郎の頬を数回、触手でペチッペチッと叩く。
 魂が口の中に引っ込んだ紫郎が我に返る。
「はっ!? あの銀子という女とオレは、どういう流れからセックスしていた? いったい銀子とオレはどんな関係になっていたんだぁぁ!! んっ? そのカプセルみたいなモノの上に座っている女は誰だ?」
「やっと、我に返ったところ悪いんですけれど、テントのスペースを空けるために天狗裸女さんのヒョウタンの中に入っていてください……天狗裸女さん、お願いします」
「うむっ、承知した」
 天狗裸女が栓を開けた、ヒョウタンの口を紫郎に向ける。
「ちょっと待て! 状況の把握がまだ……うわぁぁぁぁ……ぁひゅろろろ」
 隊長タコが詰まったボックスを抱えたまま、紫郎はヒョウタンの中に吸い込まれヒョウタンの口に栓がされる。
「隊長をヒョウタンの中で逃がさないように注意してください……用事があった時には外に出しますから」
 ヒョウタンの中から、か細い声で「キーッキーッ」と。虫が鳴くような声が聞こえてきたが天狗裸女が数回、ヒョウタンを振ったら静かになった。


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あきゅろす。
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