愛と嘘と謎と罠 @ 廃校舎にて

 軍医タコたちが校庭の一角にテント設定をしている様子を、少し離れた廃校舎二階の角の教室から、窓のカーテンを少し指先で開けて隙間から覗いている男子高校生がいた。
 優等生タイブの高校生の手には分厚い書物が抱えられていて。
 男子生徒の近くには不自然な笑みを浮かべた、一見普通の男子高校生三名が立っていた。
 分厚い書物を抱えた男子生徒が、中庭の様子をうかがっていると教室のドアを開けて一人の女子高校生が入ってきた……軍医タコたちが住宅街の駐車場で遭遇した、政治家とカーセックスをしていた、あの女子高校生だった。

 笑みを浮かべる女子高校生が、持っていた茶封筒の中から数枚の万札を取り出して言った。
「地方視察で島に立ち寄った政治家のおっさんから、たっぷり【対価】もらってきました……この島で愛の無いセックスをすると『鬼畜』になるってコトを、政治家のおっさんは知らなかったみたい……うふっ」
 女子生徒は万札数枚を、三人の男子生徒に分配してから、分厚い書籍を抱えた男子生徒にも一万円札数枚を差し出す。男子高校生は、差し出してきた万札を手の甲で押し返して言った。
「オレはいらない……おまえたちで、分配しろ」
 微笑み顔で政治家と、セックスをしてきた女子生徒が答える。
「それじゃ、いつもみたいに遠慮なくもらっておく……早く、この胸くそ悪い暗示を解いてくださいな……頭が変になりそうです」

 男子生徒の両目が アメジストのように紫色に変わり、男子生徒──騎竜〔きりゅう〕は、微笑む女子生徒の額に人差し指を当てて呟いた。
『牛が鳴き、馬がいななき、石が沈み、木の葉が流れる、男は陽、女は陰……暗示解除』
 途端にそれまで微笑んでいた女子生徒の表情が一変して、慌てて教室の隅に設置されている洗面台に駆け寄ると、吐いた。
「うげぇぇ……あんなキモい親父に車の中で抱かれて気持ち悪りぃ……うげぇぇ」
 吐き終わった女子生徒は、机の上に下品に股を開いて座る。
「【対価】のためとは言え……好きでもない中年野郎を、暗示で好きだと思い込んで……カーセックスで抱かれるのは、正直気持ちいいもんじゃねぇな……自分の本心がわからなくなる」
 壁に背もたれた騎竜は、分厚い本を開く。
「この暗示を施していなかったら、おまえも呪いで『鬼畜』になっているぞ……セックスの時だけ、本気で相手を愛する催眠暗示で呪いが発動しないようにしている……おまえたちが【対価】を欲しがっているから、オレは協力しているだけだ」
 その時、教室のドアを開けて女子生徒と、そっくりな顔の女が血相を変えて飛び込んできた……双子の妹の方だった。
「で、で、出た!」 双子の姉がさらっと言う。
「何が」
「幽霊だよ! 二階から閉鎖された三階へ繋がる薄暗い階段を、眼帯を横に繋げたみたいな変な形のブラジャーをした白い影が上がっていった! あれ絶対、一年前に亡くなった女生徒の幽路〔ゆうろ〕だよ! まだ、屋上へ繋がる三階を彷徨っているんだ! 幽路は成仏していない!」
 騎竜が書物を閉じて言った。
「昼間から何をバカなコトを、一年前のアレは事故だ忘れろ……それよりも例のアイツが幽路と最後に寝た男を探してヒーローごっこをしているから。尻尾をつかまれないように気をつけろ」
 騎竜は双子の妹に近づくと、指先を妹の額に当てて呟く。
『牛がいななき、馬が吠え、石が流れ、木の葉が沈む、男は陰、女は陽……暗示発動』
 途端に妹の表情が別人のように、微笑み顔に変わる。
 騎竜が暗示がかかった妹に質問する。
「今度、見つけてきた【対価】の客はどんな職種の男だ?」
「あいっ、島の保養施設に研修医相手の準教授で滞在している大学付属病院のお医者さんですぅ……女子高校生好きなスケベな変態おっさんですぅ。あたし、明日あの白衣の先生と診療所の手術室で抱かれる約束してきました」
「いっぱい愛して、抱かれて【対価】をもらってこい」
「あいっ、いっぱい抱かれてきますぅ」
 うへへっと笑っている妹を複雑そうな表情で眺めながら、双子の姉が騎竜に訊ねる。
「ところで、あの方はオレンジ色のタコについて、どう対処しろとメールで言ってきた?」

「タコが廃校舎の秘密を知る前に色仕掛けで誘惑して、隙を見て始末しろと……世間に秘密がバレたら、厄介なコトになるから。あの方も必死なんだろう」
 姉が鋭利なアーミーナイフを取り出すと、鞘から抜いたナイフ刃をギラつかせながら言った。
「それじゃあ、オレンジ色のタコは、切り刻んで、皮剥いてタコ鍋にでもしちゃいましょうか」と……。



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