地球触侵A

 凍騎は裸の上体を起こす、台に拘束はされていなかった。体を触ってみた……痛む部分は特に無い。

「いったい何がどうなっているんだ?」
 凍騎がそう呟いた時……空間に投影されるように映像が現れた。
 並べられた楕円形台の上に横たわる、着衣姿で傷ついた凍騎とライナの姿があった。
 流血して手足が奇妙な方向に曲がっている、自分たちの姿を見た研修医の凍騎は瞬時に即死したコトを理解した。

 凍騎は知識欲旺盛な天才的な研修医だった。医療分野も内科・外科を問わずさまざまな分野を独学で吸収していた。
 さらには医学以外の知識も豊富で、どの分野を選択してもトップになれるほどの天性の素質を持ち合わせていた。

 戦乱の時代に生まれていれば、歴史に名を残す名参謀か名軍師に。
 ルネッサンス時代に生まれていれば、レオナルド・ダ・ヴィンチ並みの天才に。
 事業の方面に進めば名起業家や名経営者になれるほどの才覚があった。
 凍騎に欠点があるとすれば。冷静でやや冷血的に見える性質と、天才ゆえの常人を越えた天性の歪んだ感覚だった。
 凍騎は映し出されている記録映像の中で、自分たちに行われている処置を冷静に観察した。

 凍騎とライナの衣服がレーザー執刀のようなモノで、切り裂かれ剥がされて全裸にされる。
 噴霧器のようなモノから少し強めのミストと泡が出て、裸体を濡らし洗浄と消毒され……温風で乾燥させられていく行程を凍騎は、興味深そうに眺める。

 乾燥中に先端がΨ状に三叉した、マニュピュレーターハンドが伸びてきて。
 男性性器の陰茎が持ち上げられたり、睾丸の裏側を温風で乾かされたり。ライナの方も女性性器を拡げられたりされた。

 そして、金属製の直径三ミリほどの金色の円形電子チップのようなモノが、凍騎は睾丸と肛門の中間……会陰の辺りに。ライナは拡げられた膣前庭の尿道口と膣口の中間辺りに、マニュピレーターで無造作に押し当てられ固定される。
 凍騎は自分の会陰に手を伸ばして、貼りついている金属チップに触れてみた。 どうやら、ピンズのように針が肉体に刺さって固定されているようだった……痛みはない。
(なるほど、なんらかの目的でチップを体にインプラントされたか……おもしろいコトをする)

 さらに映像を見ていると、注射器のような針が付いた中身が見える円筒型のマニュピュレーターハンドが凍騎とライナの首筋に向かって伸びてきた。
 注射器マニュピレーターに巻き付いた半透明なチューブの中を、蠢く触手が流れてきた……凍騎の方は金色の触手、ライナは銀色の触手だった。

 注射器の中で潰された触手の体液が、凍騎とライナの体内に注入されていく。
 首筋から刺さっていた針が離れると、凍騎の不自然に曲がった手足や、折れた肋骨が形状記憶合金のように正常な状態へともどり。
 ライナの体にあった裂傷や内部破裂した内臓が、元の状態へと再生していく映像を凍騎は驚きの表情で眺めた。
 傷がすべて消えると、横たわっている凍騎とライナの胸が呼吸活動で上下を開始する。
 心臓の辺りがトクットクッと動いているのがわかった。
 映像はそこで終わり消えた。

 凍騎は自分の裸体を撫で回す。
(蘇生させられた体か……実に興味深い、あの注入された生物は?)
 凍騎が思考していると、床の一部が盛り上がりゼリー状の生物が現れた。
 細胞核が内部に見えるゼリー状の生物は、裸の女に姿を変えた。



 裸の女は凍騎をチラッと見ると、背を向けて部屋から出て行こうと歩きはじめた。
 すかさず凍騎が裸の女に声をかける。
「待ってくれ! 目的はわからないが、とりあえず蘇生させてもらったことを感謝する……あなたは未知の生命体なのか? 人類よりも進んだ科学力を持っていると見た、オレをあなたたちの仲間に加えてくれ! あなたたちに忠誠を誓う!」
 立ち止まって振り返った女は、無言で凍騎を眺める。
「この体を実験でもなんでも使ってもいい、その代わりあなたたちの科学技術をオレに見せて教えてくれ……高度な科学技術が自分の知識になるのなら本望だ」


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あきゅろす。
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