地球触侵@
 
 宇宙空間を進む、子宮と卵巣と膣の女性の内部女性性器に似た触手軍の生物的な宇宙母船。
 後方には母船に鎖で牽引されて進む、蠢く触手軍団の小惑星。
 さらには精子の形をした、数千の小型宇宙船が母船に寄り添うように航行している触手大船団だった。

 女性内部生殖器型宇宙船内の触手が蠢く広間で。
 触手壁の中にある、楕円形で凸面をした巨大な有機質モニターに映っている、黄金色に輝く『触手王』が蠢いていた。
 触手王の指示を聞いた凍騎は複雑そうな表情をした。
《次の触侵惑星は、凍騎……おまえの故郷の星『地球』だ》

 凍騎は一言。
「わかりました」
 と、返答する。
 触手王に混じって銀色の『触手女王』が有機質モニター内で蠢き、凍騎に言った。
《自分の故郷を触侵するコトに、戸惑っているようにも見えるわね……やっぱり、凍騎も所詮は人間……故郷に未練があるの?》
 表情を変えずに凍騎が言った。
「別に……地球などどうなっても構いません、あんな腐った人間どもの未来がない星など」

 凍騎の吐き捨てるような言葉を聞いて触手王が言った。
太古に地球に侵入した触手たちと協力して、触侵成功の吉報を待っているぞ……凍騎》
 壁の触手たちが蠢いて、有機質モニターを被い隠す。
 凍騎は近くに立っている裸のティティスに命じる。
「ティティス、進路を『地球』にとれ、地球を触侵するオレは自分の部屋で休息する……何かあったら呼びに来い」

 凍騎は触手部屋を離れ、触手通路を通って自分の部屋に入る。ベットとクリーム色の壁に備え付けのテーブルがあるだけの質素で狭い、カプセルホテルのような部屋だった……部屋には窓はなく触手もいない。
 衣服をすべて脱ぎ捨てて全裸になった凍騎は、備え付けのベットに裸体を横たえ毛布で裸体を被った。
 脱いだ衣服は、壁の洗濯扉に入れて置けば、自動的に洗ってくれる。
「ふぅ……っ、地球か」
 凍騎は枕元に置いてある、指輪ケースを手にして中に入っているエンゲージ〔婚約〕リングを眺める。
(ライナ……あれから、三年か)
 両目を閉じた凍騎は回想ながら眠りの世界に堕ちていった。


 三年前の地球、星が綺麗な夜……数週間前にいきなり出現した小惑星が尾を引きはじめた頃。
 峠道を外れた斜面に一台の乗用車が木々に引っ掛かって止まっていた。
 峠道のカーブには、衝突で大破したガードレールがあり……斜面にはガードレールを突き破って転落してきた、乗用車の走行痕跡が生々しく残っていた。

 対向車線を越えて走ってきたトラックのライトに目が眩みながら、衝突を避けようとした事故だった……トラックはそのまま走り去ってしまった。
 乗用車に乗っていたのは研修医の鬼頭 凍騎と、その恋人のライナだった。凍騎とライナの体は大樹に衝突した際に車外に投げ出され。
 ライナはうつ伏せで額から血を流し、凍騎は仰向けで手足はありえない方向に曲がっていた……二人は即死だった。

 交通量が少ない峠道の斜面に放置されている、凍騎とライナの遺体……山の陰から突如、浮上してきた光りの円盤が事故現場を上空から照らす。
 UFOから照射される光りを受けた、凍騎とライナの遺体が空中に浮かび上がる。
 ぐったりとした二人の体は、円盤の底部に開いた穴から中へと吸い込まれていった。


 数時間後……凍騎は明るい光りに目覚めた。
(ここは……どこだ?)
 天井には手術室のような照明と、先端に見たことがない医療器具が付いたマニュピレーターハンドが、照明の周りをとり囲むように下がっていた。

 凍騎は自分が全裸で、楕円形の台に仰向けで寝かされているコトに気づく。

 台の下半身部分は、縁が波形をした透過プラスチックのカバーのようなモノで被われていて、局部の部分を波の山で隠すようになっている。
 横目を向けると、恋人のライナも同じように全裸で楕円形の台に仰向け姿勢で、両目を閉じた格好で寝かされていた。
(いったい、オレたちの体に何をされた?? 何があった??)
 凍騎が覚えているのは運転していた車がガードレールを破って、斜面を転落していく時の衝撃と、運転席から投げ出され樹に体が激突した記憶だった。

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あきゅろす。
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