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EP2-01*
「さい……あくだっ!」
 息も絶え絶えそう呟くと、ロイは苦しそうに眉を顰めた。
「そんなこと言っても仕方ないだろう?」
 ロイの上ではアシュレーが困ったように笑いながら髪をかきあげる。
「だからって…なにも……ここまでするひつようはねぇだろっ!!」
 言い終わったと同時にロイの背が綺麗に撓る。
「くぅっっ!」
「ああ、ほら。そんな大声で怒鳴るから」
 宥めすかせる様にそっと口付けるベージュブラウン。軽く腰を動かせば、繋がった部分が更なる刺激を欲しがって中にあるものを締め付ける。本来なら異なった性を持つもの同士が行う行為を何故この二人がしているのかと言えば、それは今回のミッションが原因だった。
 前回、古城の封印を解きその奥に眠っていたフリークスを解放したロイ・ドノヴァンは、何故かその化け物に気に入られ面倒を見ることになってしまった。見た目は青年中身は爺さん。余りにも世間知らずな彼の名前はアシュレー・モンターギュ・ペイルズと言う。
 気の遠くなるほど長い時間古城に引きこもっていたアシュレーの感覚は、思った以上に浮世離れしていた。そんな彼はというと、変わってしまった人の世に心惹かれるものがあるらしく、見るもの全てが珍しい……そう言った雰囲気で何にでも興味を持ってしまう。それなりにある程度の知識があるお陰で、今のところ大事に至ることはない。とはいえ、彼と行動を共にする間、ロイが何度か恥ずかしい思いをさせられたのは言うまでもなかった。
 道端で、店先で、ハンター協会本部で。ありとあらゆる場所で目に付いた興味を惹くものに対して「あれは何だ?」「これはどういうものだ?」と聞くものだから、最近では答えるのも面倒くなってしまっていた。しかも、落ち着いた印象があるせいで、そのギャップがおもしろいのか何処に行っても笑われてしまうのも悩みどころだ。
 それでも、一度面倒を見ると約束をしてしまった以上、ロイは彼のことを見捨てたりはしなかった。結局はどこまでもお人好しという事である。
 そうは言っても、四六時中アシュレーの勉強会に付き合ってやれるほどロイは暇ではない。働かざるもの食うべからずと言うように、仕事もそれなりにこなさなければ、生きてはいけないからだ。今までは気楽な独り身生活。それを恋しがっても、今は扶養家族らしきものが自分を含め二人になってしまった。幸いにも食費はさほどかからないから安堵はしたものの、衣服や生活雑貨といったものはしっかりと必要になってくる。宿屋の宿泊費だけでもバカにはならないのだ。以前それをぼやいた際、野宿でも良いとアシュレーは言いはしたが、外で何かあったときに二人だと対応が遅れてしまう事を懸念したロイは、なるべく外出先では宿を取るようにしていた。そんな物だから、正直アシュレーがロイの仕事を手伝える人材だと判ったときは内心嬉しいと感じたのだった。
 サポーターとして使える事が判って以来、コンビを組んで依頼をこなしそれなりに場数も踏んできたはずだ。実績が積まれればそれなりに名は上がるというモノ。多分、それがいけなかったのだろう。突然通知された仕事の依頼に後から後悔がやってくるなど、この時のロイには想像も出来なかった。
 今回受けたミッションは、植物型のクリーチャーの除去である。
 概要としては、試験的に撒いた農薬の一部に生物性の遺伝子の入ったウイルスが混ざっていたらしく、それが植物に転移した後化学変化を起こしてしまい、周囲の動植物を取り込みながらその遺伝情報を盗み統合を繰り返した。その結果、母体となった植物は一つのクリーチャーへと進化を遂げてしまった。
 地域一帯の森に根を張った核を持つ本体は進入者から自分の身を守る為に、そこにあるあらゆるものを使って全力で向かってくる。しかも最悪なことにそれの活動エネルギーは光合成によって生成される植物的なものではなく、生物の生体エネルギーを触手によって吸収するというもので、その対象には当然森に生息する動物や近隣に住む人間も含まれていた。このままではいけないと判断したハンター協会は、直ぐに討伐チームを編成しクリーチャーの討伐に向かわせたが思った以上に苦戦した挙げ句戻ってこれたのはチームの半分程の人数のみ。そこでもう一度討伐チームを組むことになったのだが、それに名乗りを上げる勇士がなかなかおらず、結局は腕に覚えのある実力者たちに声をかけて半ば強制的に討伐チームが組まれることになってしまった。
 今回は、例に漏れること無くそのチームの中にロイが組み込まれてしまったと。そういうわけらしい。
「まだ戻ってきたばっかりなんだけど?」
 協会本部の扉を開いて早々、オペレーターのレイチェル・マグラレンが申し訳なさそうに渡してきた一枚のディスクカード。
「ごめんね、ロイ。一刻を争うらしいから、上の人間が勝手に決めちゃったみたいで……」
「…………あっそ」
 レイチェルに文句を言っても何も始まらない事など百も承知。取りあえずはディスクの中身を見てみようと思い、ターミナルユニットのある場所まで移動しディスクを端末にセットする。直ぐにロードが始まり、幾つかの情報ブロックがディスプレイに表示された。
「先ずは討伐メンバーのリストからか」
 タッチパネルの画面を操作しリストを選ぶとそれが画面に拡大表示される。スクロールし一人一人の名をチェックしていく作業はとても地味で正直つまらない。欠伸をかみ殺しつつ情報を眺めていると、気になる文字を見つけ手が止まった。
「ん?」
 そこに表示されている数人の名前に覚えがあった。随分と懐かしいその名前に思わず和らいだ表情。しかしリストはこれで終わりではない。見知った名前があるのと同じく、何人かは全く名前を見たことがない人物も居る。もしかすると自分の名前は無いのではないか。そんな浅はかな考えに期待を寄せながら名簿を流し見続けると、残念なことにリストの中程にしっかりと存在しているロイ・ドノヴァンという文字。
「逃げることはできなねぇってことかよ」
 何だか非常に面倒臭そうな討伐依頼に、吐き出されるのは深い溜息で。次に確認したいのは討伐対象であるクリーチャーの情報。ディスプレイをタッチしながらリストを非表示に切り替えると、今度は当該クリーチャーの情報へと表示を切り替える。
「植物型のクリーチャー? ふぅん…また珍しいのが来たな」
 植物型のクリーチャーのハント対象登録は比較的珍しい事例である。何故なら、彼らは外敵から身を守る正当防衛以外では生物を襲うことが殆どないからだ。性格がどうこうというよりも、地に根を張ることでしか生きていけないという制約的な要因が大きいのが理由としてあるのだろう。そのクリーチャーの生息する区画に用のない限りは立ち入ることをしない。そういう協定の元、植物型のクリーチャーとは比較的穏やかな関係を築いているというのが、この業界での常識だったはずだ。
「あれ? 何だ? 動物型の遺伝子?」
 スクロールを続け表示された内容を読み進めていくと、気になる一文を見つけ手を止める。
「ああ、成る程ね。これは後天的な要素なんだな。素体は植物だけど、後天的に足された要因に寄って遺伝子配列が変わってしまったと。つまりは、遺伝子統合型進化による変異体ってことか」
「遺伝子統合型進化?」
 一人端末を見ながら呟いているロイの斜め後ろ。そこに大人しく待機していたアシュレーが、痺れを切らしたように動き出す。端末前で未だ操作を続けるロイの背後からアシュレーが覗き込み首を傾げて復唱する言葉。
「ああ。次の依頼の情報だよ」
 端末の中心から半歩体を退かし人一人分のスペースを空けると、ロイは此処に立てよと相方に指示を出す。アシュレーが指示された場所に移動したことを確認した後で、ディスプレイに表示される情報を指さしながら、簡易的にまとめた情報の説明をすべく開いた口。言葉を吐き出すよりも先に、アシュレーの方が疑問を投げかけ言葉は遮られてしまった。
「なぁなぁ、その遺伝子統合型進化って何の事なんだ?」
「えっと……そうだなぁ、アシュレー。アンタさ、ハントリストに対象が登録される時って、どうやって記載されるか知ってるか?」
「いや。知らないな」
 丁度良い。そう言ってロイは一度カードの情報が表示されているブラウザを閉じると、ホストサーバーにアクセスしハントリストを幾つか表示させる。
「今後もサポートを続けるつもりならさ、よく見ておけよな。これがハントリストに記載されている危険指定種のクリーチャー達だ。まず、管理番号によって各種族がカテゴライズされる。人型の場合は01。獣型の場合は02。植物型の場合は03。何処にも属さない変異体は00と言ったようにな。ここの番号を見てみろよ」
「この頭の数字の事か?」
「ああ。このクリーチャーの場合は01となってるだろ? つまり、これは人型のクリーチャーだと言うことが判んのね。もしアンタがハントリストに掲載されるなら、ここの数字は01となるってワケだ」
「うへぇ…」
 次にその隣のハイフンで区切られた後の数字を指さしロイは話を続ける。
「この数字は種族別の細分化されたカテゴリを表してんの。人型と言っても実に種類は様々でさ。アシュレーのような吸血鬼と呼ばれるもの、ライカンスロープという獣人と呼ばれるもの。リビングデッドやゾンビと言ったものもこのカテゴリに分類されてる」
「成る程。この種族識別番号でその種族が一体どのタイプになるのかと判るようになってるのか」
「その通り」
 飲み込みが早くて助かる。そう付け加えた後、更に講義は続く。
「次にココを押すと画像情報が出てくんのね。でもこの画面じゃ基本的なモンタージュしか作成されないから、もっと詳しい人相なんかの情報が必要な場合は、個体識別番号と呼ばれるナンバーを入力する必要があんだよ。で、それを使って登録されているクリーチャーの個体情報を検索するしか確認方法ってないんだけど、総括的に情報が欲しい場合は、種族識別番号だけで十分に事足りることもあんだ。今表示されてんのは個体識別番号を入れていないから、種族のみの情報しか登録されていないハントリストってことね。これのことは、一種のお勉強プログラムと記憶しておいてくれればいいよ」
「ふぅん…」
「さて…問題のターゲットなんだけど……」
 一度閉じたブラウザを再び起動させ個体識別番号をコピーすると、検索ボックスを表示させそこにコピーした内容をペーストし情報を検索する。暫くホストにアクセスし考え込んだ後、コンピューターは必要な情報をディスプレイに表示させた。

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