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2。






「主任、休みの日にすみません。けど助かりました!」
「嗚呼、いいのよ。良かった先方を待たせるのは得策じゃないし呼んでくれてありがとう」




会社に赴くと、部下が涙ながらに出迎えてきた。
どうやら取引先のミスが在り、発注を繰り上げなきゃならないものが合ったらしい。しかし上司が頼りにならない奴しかいなくて、わたしに助けを求めたらしい。


加藤くんは3年目で仕事もそこそこ出来るし、状況判断も意外に正しい。3年目になると任されるものが増えたり新人相手に教えたり、実は曖昧な仕事だったものが見えてくる時期でもある。新人の時人懐っこい加藤くんは、仕事女のわたしにも懐いてきて初めは苦手だったけれど仕事は真面目にやる子だったので評価している。



嗚呼、けど加藤くん、目を着けられちゃうわよ。
仕事の出来ない上司は嫌味を言い、結局手伝ってくれなかったのだという。まぁ文句はわたしにくるから大丈夫かしら。



ふたりで仕事先に電話し、手続きや経過を纏め、先方も満足いくような結果に纏めた頃には夕方になっていた。差し入れにたくさんパンを買ってきていたけれど、お昼に加藤くんが沢山食べていたのでもうないし、ちょっと休憩いれたほうがいいかな。
席を立って、事後処理にパソコンに向き合う加藤くんに自販機で買った甘いコーヒーを差し出す。




「お疲れ様。甘いの平気だった?」
「ありがとうございます!有難く頂きます!」



加藤くんは結構カッコいい部類に入るようで新人社員の噂も聞いている。うん、いつも笑顔だし仕事もできるし、意外にも状況判断できるし、見極めもいい。
上の人にちゃんと報告しておこう。うんうん。

部下の成長を嬉しく思い、同じく甘いコーヒーを口付るとふと視線を感じる。
ん?なんだろうか。



「加藤くん?」
「…ッあ、いえ、すみません」



不思議に思いつつも視線を逸らした加藤くんに首を傾げ、兎に角残った書類を纏め上げる。
仕事に区切りがついて、居候の男はちゃんとご飯を食べたか気掛かりだが大の大人だしそこまで気にしなくても平気か。
というか、まさか日本語覚え始めるなんてスペック高過ぎる。朝は吃驚した。
今日も閉館まで図書館に入り浸るのだろう。
夕飯は何か出来合いを買って行って楽してしまおうか。




「あの、主任!」


意識を少し逸らしていた美和は、ハッとして部下に眼をやる。
思いがけず真剣な表情が、意外にも近くに合って目を少し見張る。




「…?なに、」
「一緒に、飯行きませんか?今日のお礼を!」



顔を少し赤くして加藤くんが言葉を続けるのを聞いて、可愛いなと思ってしまう。今現在年下である筈の男が可愛げが無いので、こういう反応を見ると微笑ましく思う。
上司だからって畏まらなくてもいいのに。
有難い申し出だが、加藤くんとふたりでごはんに行ったとなると社内が五月蠅そうなので止めておく。それに、今異世界の可愛くない男が居るのだから最後までちゃんと面倒を見ないと。



「ありがとう加藤くん。けど、今日はゆっくり帰って休んで。また次の機会に誘って頂戴ね」



社内なのに、少し微笑ましい様子に仮面が緩む。
親しい部下や同期には緩んでしまうのは仕方ない。
纏めた書類をデスクに出しておくように伝え、先に会社を後にした。
















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あきゅろす。
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