偽り
22
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「平和って素敵だよな」
あの忌まわしい悪夢から3日経ち、あれから何事もなく過ごしてきた俺はとても心地がいい。今は食堂でヒロと一緒にご飯を食べている。ヒロにはだいたい話はしたけど、呆れられ、これからは気をつけるようにと念を押された。ごもっともです。
「今から平和じゃなくなったりして」
「笑えない冗談はやめてくれ」
冗談じゃなかったりして、と食堂の入り口を見たヒロにあぁ、来たのかと頭を抱えた。
「ほら、ゆずる、そんなことしてると目立つよ」
ヒロにそう言われ、びしっと背筋を伸ばして生徒会が来るのを待った。今日は誰が来たのか…。周りの声がだんだんと騒がしくなってきて、その声が奇声に変わった。もしかして、この騒ぎようは全員…?嫌な予感しかしない俺は笑顔がだんだん引きつっていた。ヒロはめちゃめちゃ笑顔でした。…さすが大物。
「今日は生徒会全員いらっしゃったわ!」
奇声の中から親衛隊の誰かが言った声が聞こえ、俺の嫌な予感が的中した。俺の平和を返してくれ。
そんな怒りを隠しながら、俺も奇声に混じってきゃーきゃー叫んだ。そのとき、相良千里と目が合った気がした。いや、合ってしまった。不適に笑う相良が目に入る。
「ゆずる、やっぱ相良千里に覚えられてるな」
と小声でヒロに言われ、そうだなと苦笑いしか出なかった。覚えられてるのはショックだったけど、俺のとこに来ないだけまだましだと思うことにした。…常識はあるのか。あの出来事があってから俺の中の相良千里のイメージがほんの少し変わっていた。良い奴なのかもしれない。
「ゆずる?箸止まってっけど食べないのか?」
ヒロに言われ、慌てて残りのご飯を食べだした。途中むせてヒロに笑われた。
…笑うな。
周りもだんだんと静かになっていく中、誰かの叫び声が食堂に響いた。それと同時に俺たちが座っている席に人が飛んできた。俺はびっくりして思わず、席を立って飛んできた人の側に腰を下ろした。
大丈夫か?と小さい声で聞くとうるせぇと言って手を叩かれ、そいつはよろけながらもこの場から逃げるように立ち去っていった。
「なっ…、」
「ゆずる、逃げるぞ」
ヒロの焦った声が聞こえ俺もこの場から立ち去ろうと立ち上がったとき、後ろから襟を掴まれ、俺はそのまま持ち上げられていた。
「うっ…」
襟を掴まれているせいで苦しい俺は無意識に足をバタバタと動かしていた。
何が起こっているかなんて今の俺に考える余裕はなかった。息できない。
周りで騒いでいる声でさえ小さく聞こえた。
俺を掴んでいるやつはなんとなくわかったけど、なんで俺が掴まれてるかはわからない。わかりたくもない。
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