SS
2008-03-27(木)
あなたと私の哀歌
昼過ぎだというのに、私たちの部屋はカーテンのせいで真っ暗だった。カーテンを開けて日の光を浴びたい気もするけれど、ベッドから出るのが億劫だ。しかも、今は裸だから肌寒い。もう少し、布団の中で暖まっていたい。私は隣で寝ている美沙に向かって、ぽつりと呟いた。
「私、病気なの」
「それ‥本当?」
美沙は、「また変な事言って…」とか思っているのだろう。布団の中から見えた首には、いくつもの私の痕が見えている。その痕が、私が病気であるという証。
「美沙、起き上がってみて」
「えー?」
めんどくさいなぁ‥なんて言いつつも素直に体を起こす美沙。…あれ、コイツちゃっかり下着つけてるじゃん。別に裸が見たいわけではないけど。
私は美沙の首にある痕を撫でながら、視線は美沙の目に合わせて、ゆっくり話す。
「この痕が病気の証拠…私が、美沙無しじゃ生きていけないっていう病気の証拠」
「へぇ…って言っても、あたしは鏡が無いとその痕見れないよ」
「そうだね‥あとで見といてよ」
「うん、見とくー‥」
そう言いつつも、どうにかして痕を見ようと頑張る美沙が少し滑稽で、とても愛しい。
「ねぇ、沙夜ちゃん」
「何?」
「背中がヒリヒリする」
この辺、と言って美沙が示した場所には、私の無数の爪痕。この爪痕をつけた自分が言うのも何だけど、痛々しい。所々、赤く腫れている。
「ごめん‥昨日、爪立ててたみたい」
「まじでぇ…昨日、全然気付かなかった」
「それはきっと興奮してたからだよ」
「昨日の沙夜ちゃん、エロかったもんねぇ?」
それは、いつもの事だけど。という言葉は飲み込んだ。
しばらくして、
「沙夜ちゃん、病気の話だけど‥」
シャワーも着替えも済ませて、私たちはソファに座ってテレビを見ていた。
「何ー?」
「あたしも、だいぶ前から病気なんだよね…沙夜ちゃん無しじゃ生きていけません病」
「…うん」
私も美沙も、視線はテレビに向いたまま。
「あたしさ、もう沙夜ちゃんじゃないと満足できないのー」
「そうなんだ‥」
あ、私この歌手好きなんだよね‥。日本を代表する歌姫って感じで。
「あ、この人の歌良いよね!あたしアレが好きだなあ‥海で歌ってるやつ」
「私もそれ好きー」
病気の話はどこに行ったんだよ。
「でね、人間って、最期は必ず理由があって死ぬでしょ?」
「…いきなり重い話だね」
病気の話から結構逸れたぞ。
「えへへ‥で、あたし、死ぬなら沙夜ちゃんの愛で死にたい」
「‥は?」
思わずテレビから目を放して美沙を見てみると、満面の笑みで私を見る美沙。
「老衰とか癌とかじゃなくて、沙夜ちゃんの愛で死にたい!」
美沙は真剣だった。
私の愛で死ぬ、なんて。そしたら、美沙が死んだあとは、私は一人になるの?
いや、違う。
その時は、私も美沙の愛で。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪
いつか滅び逝くこのカラダならば
蝕まれたい あなたの愛で
哀歌(エレジー)/平井堅
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