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140文字他SS置き場
※CP表記の無い物は、ほぼ土銀か高銀

2017-11-27(月)
開き直り(※未完) 土→銀

***

 深夜のファミレスに一人飛び込んで『季節限定の桃パフェ』を頼んだ。
 今夜は誰に遠慮する必要もない。
 お化け屋敷ならぬ西郷のオカマバーで、踊り飲まされこき使われて得た正当な報酬で、自らにご褒美を振る舞う。
 出てきたパフェは素晴らしく、色取り取りのゼリーで飾られ、今風で言うなら「インスタ映え間違いなし」の見栄えで、一口、口に運べば桃の自然の甘さが一気に口内に広がり全身の緊張が解けた。

 んー、うまい。

 さすが、SNSで話題になっていただけの事はある。
 これを食べれば、きっとどんな屈強な男でも、ふにゃりとした笑顔になるだろう。

「―――どうした? んな、ふにゃふにゃした顔しやがって」
 そう、そんな俺自身もしかり……、って、
「え……?」
 スプーンにクリームを乗せたまま、俺はぎこちなく首を動かせ通路に目をやり一瞬間固まってしまった。
「店の前、通りかかったら、外からてめえの姿が見えてな」
「……」

 そこに居たのは、真っ暗な夜に溶け込んでしまいそうな真っ黒な隊服を着た男だった。

「ここ、いいか?」
「え、いや、ちょっと」

 質問の返答を最後まで聞くまでもなく、既に背後に居た店員にコーヒーを一つ注文すると、真選組副長さんの土方くんは、俺の目の前の席に一かけらの戸惑いもなくどかりと腰を下ろした。
 八面玲瓏って言うんだっけ? 何処から見ても相変わらず、見た目の整ったムカつく程のいい男だ。
「……一か月ぶりだな」
 土方くんは、胸ポケットから一旦取り出した煙草を何かを思い出したような顔をして再び元の場所へ仕舞いながら言った。
「喫煙席、あっちだよ」
 振り向かず自らの肩越しに背後を指さす俺に、
「……居ちゃあ悪りいか?」
 片眉を持ち上げ読めない表情を浮かべた土方君が聞いた。
「いや、おめえさんがタバコ吸えないのが辛いんじゃねえかと思って」
「構わねえ」
「なら、いいけど……」
 俺は絡めとられた視線を外すためにも目を伏せてスプーンに乗せていたクリームを口に運んだ。
「てめえは元気にしてたか」
「まあ、それなりに」
 一口、
「今日はまた一段と妙な恰好してんな」
「これは、お仕事。パー子さんだからね」
 また、一口。
「でも、綺麗だ」
「ぶっ」
 危うく生クリームを吹きかけた。
「やっと顔を上げたな」
 微かに口角を持ち上げた土方くんの唇から忍び笑いが漏れていた。
 くそっ……。どういうつもりだ、この男。
 俺は桃を一気に頬張り、咀嚼して呑み込んでスプーンを置いて土方くんを睨み付けた。
「おいおい、怖い顔、すんなよ」
「元からだ。……おい、んなことより、コーヒー来たぞ」
「ああ」
 何なんだよ、もう。
「早く飲め」
「で? そして帰れってか?」
「……ぬるくなったら不味いだろう」
 店内は、寒いとは言わないが、ほどほどには冷房が効いている。
 砂糖もミルクも入れないくせに、土方くんは長い指でスプーンを手に取り、目の前のコーヒーをくるくると時計回りにかき回す。
「万事屋、てめえは俺が元気だったかは聞いてはくれねえのか?」
「……分かった。聞く。元気してた?」
「この一か月、どん底だった」
「ああ、そう」
「てめえに振られたせいで」
「そりゃあ、悪うございましたね……」
 だから、何も言わなければよかったんだよ、おめえさんは。
 二人で飲むの楽しかったろ? 俺も楽しかったよ。
 最初はあちこち別の方向ばかり見て反発しあっていたわけだけれど、二人そろって同じ方向を見ないというのなら、正面から対峙してみれば、常に相手を見ているってことだ。
 きっと、そんな相手とは、一番深く理解し合えるのだろうと思う。

 てめえが一歩踏み出すことさえしなければ、今も二人で肩を並べ、取り止めのないことを話し笑っていられたことだろう―――。

「なに? 恨み節ぶつけに来たの?」
「いや、それがそうでもねえ」
「じゃあ、俺の事はきっぱりと忘れてくれたとか?」
「それはてめえの願望なんだろうが、それも違う」
「……なら、何なんだよ?」
 振られてどん底だったが、俺の事は忘れない?
 だが、文句を言いたいわけではない。
 意味が分からない。
 なかった事にでもしなければ、以前のような関係になれるはずがない。
「久しぶりに現れたと思ったら、おめえは何がしたいの土方くん?」
 やけくそ気味に、残りのパフェを丼ぶり物のようにかき込んで俺は聞いた。
 畜生、もっと味わって食いたかった。
 以前、てめえと食ったパフェは、別に限定物でも何でもないありふれたチョコパフェだったのに、今食ったパフェよりも何倍も美味かったような気がする。
「俺が何がしたいか知りたいか?」
「いや、別に……」
「何がしたいのか聞いたんなら一応、知りたくなくても「知りたい」ぐれぇ言えよ、それが大人の心遣いってもんだろう!」
「土方くん、怖い」
「すまねえ……、って、何で俺、謝ってんだ? 振られたのに」
「やっぱ、面白いね、おめえさんは」
 打てば響く。
 一緒に居て、何の遠慮もいらない。
 妙な告白さえされなければ、本当に居心地のいい相手だったんだけどな。
「万事屋……、てめえはやっぱり腹立つ相手だよ」
「嫌いになった?」
「なるわけねえだろう! んな簡単に忘れられっか!」
「あらま」
「っつーか、そうだ! 俺が何がしたいかって言えば、今みたいなことがしたかったんだ」
「え?」
「自分の気持ちを伝えちまったから、もう『隠さなくていいんだ』ってことに、この店の前で気が付いた」
「……どういうこと?」
「例えば、今さっき、ガラス越しの明かりの中にぽつんとてめえが浮かんで見えた。凄く綺麗だと思ったから、綺麗だと言いに来た」
「……へ?」
「前までは、てめえにこの気持ちが気づかれない様、言いたいことも我慢して全部隠さなけりゃならなかったかった。が、今は違う」
「……」
「この一か月間、てめえに振られて心底悲しかった。なるべく顔を合わさねえように事務仕事に没頭して、てめえの事は諦めようとしたがそんなのは無理な話だったんだ。てめえは、俺にとって特別な人間なんだよ。そんな風になっちまってた。俺はてめえに心底、惚れてる。なんでこんな体たらくな、しかも同じ男に惚れちまったのかは自分の不徳の致すところだが、」
「おいっ」
 土方くんは、困ったような、はにかんだような、今まで見せたことのない顔をして笑った。
「俺はてめえに惚れちまったんだよ」
「……」
「そして、既に俺の気持ちはてめえにばれてる。俺が言った。自分で暴露した」
「それな。……言わなけりゃいいものを」
「もう、言っちまった。あとには引けねえ。一発殴って、てめえが忘れてくれるんならぶん殴るが、てめえは簡単には殴らせてくれねえだろうし、殴ったら何発こっちが殴り返されるか分からねえ」
「まあ、四分の三殺しだな」
「だろ? で、結局、忘れさせるのも忘れんのも無理、元より諦めんのが無理なんだ。なら、残った選択肢は突き進むしかねえだろうが」
「はい?」
「だから、今後一切、隠さねえ。もう隠す必要はねえからな。俺はいつでも心の中で思ったことが言える。今まで飲み込んまざるを得なかった言葉を口にすることが出来るって気づいたんだ。だから今後、俺は全力でてめえに好きだと伝えていくことにした。さっき決めた。支離滅裂な話だと自分でも思う。だが、もう決めた。以上だ」
「……有り得ねえ」
 俺は呆然として呟いた。眉間に指を押し付けたくなるほどの傍若無人な自己主張じゃないか、これは。
「意地でも落としてやる。覚悟しろ」
 暫し言葉を失う。


<つづく>
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