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ごめん、それでも、すきなんだ


♯1〜43「日常編」
♯44〜「過去編(ヤス視点)」
♯66〜「距離編(秀介視点)」
♯87〜「閑話休題(孝臣視点)」
♯91〜「終末編(和臣視点)」

◆◇◆SBI完結◆◇◆
ご愛読ありがとうございました!
2011-12-07(水)
捨て金


 ミヤビくんからグラスと氷と酒と割物をもらって、嬉しそうにしゅーにぃが酒作ってくれた。

「いやー、ナンバーとか取るとさー、酒も下の奴らが作ってくれるから久しぶりにこんなんしたわ」
「ちゃんと働けよ」
「働いてるよ」
「まあでもホストとか、しゅーにぃ天職だよね。酒飲めてタバコ吸い放題でオンナ抱き放題。ホテル代はかかんねーしなぁ?」
「まあねー」

 ハハ、とか笑うしゅーにぃにホストの面白トークとか聞きつつ、ふつーに飲んだ。櫻さんとこで飲むのと変わんないくらいのテンションで。ちょっと前の日々がなかったみたいに。
 それでも、オレはそれをなかったことにはしてやれない。

「しゅーにぃ」
「んー?」

 しゅーにぃもけっこーなペースで飲んでた。ホストになってから酒強くなったとは言ってたけど、それにもともと弱い訳じゃなかったけど。それでも今日はやや酔いなのはわかってた。
 ふわふわしちゃって、オレの肩に頭乗っけて甘えてくれちゃってるしゅーにぃを呼んで、体を離す。首かしげながらオレを見てくるしゅーにぃはかわいい。だけど、それでも、

  躾は必要だと思うんだ。

「しゅーにぃ」
「なに?」
「借金、いくらあんの?」
「は……?」
「エース切れて売掛逃げられたんじゃねーの?」
「な、んでカオが」
「知ってんのかって? ってことは借金あんのはマジなのね」

 やべ、みたいな顔して。そんな顔しても今は許してやらねー。

「お前、オンナの扱い酷すぎんだよ。前はちゃんとお姫様対応してたじゃねーか。性処理道具兼サイフにしすぎだっつーの」
「ちょ、ほんとに、カオはなんでそんなこと知ってんの!?」
「今はそんなんどーでもよくね?」

 焦ったしゅーにぃが無理に笑おうとするから、止めてやった。それから、カバンの奥に突っ込んどいた紙袋も出した。
 ベシッとそれでしゅーにぃの頭を叩くと、ちょっと乱暴にその手に押し付ける。よし、受け取ったな。

「127入ってる」
「へ?」
「オレの貯金全額」
「は!?」

 慌てて中身を確認したしゅーにぃは、単位が万で、本気で127枚の札が入ってるとわかったらしい。泣きそうに顔を歪ませてきた。

「足んねーだろーけど」
「もらえないって」
「やらねーよ」

 しゅーにぃが吸いまくってる、テーブルの上のタバコを手にとる。オレもおんなじの吸いまくってる。
 一本くわえても、ホストのくせに火すらつけてくれねー。仕方なく自分でライター持って火をつけて、深く呼吸した。

「ヒデは、いくら借金あんの?」
「……260」
「じゃあとりあえずそれで半分くらいは返せるな」
「でも、」
「あとはちゃんと働いて返せ。とりあえず借金返しおわったら、会いにきていーよ」
「え……?」
「あの部屋で、待ってるから」

 言って、くわえてたタバコをしゅーにぃの口にくわえさせた。

「オレさー、あの時しゅーにぃに幻滅したんだよね。こいつここまでクズだったのか。死ねばいいのにっつーか死にてー、みたいな?」
「カオ……」

 言って、しゅーにぃがくわえっぱなしのタバコを取って灰皿に押し付けた。呆然としすぎ。灰落ちる寸前だっつーの。

「んじゃ」

 カバン背負って席を立とうとしたら、勢いよく引っ張られて、しゅーにぃの腕の中に落ちてしまった。
 ぎゅっと抱きしめてくる腕が、震えている。こーゆーとこ、この兄弟は似てんだよな。

「しゅーにぃ?」
「ごめん、ごめん、カオ……っ、でも、オレ……、オレは」

 何も聞きたくなくて、その手を振り払った。
 振り返らずに、店を出てエレベーターに乗って地上に降りた。しゅーにぃは追ってこなかった。それでよかった。それで、よかった。


#97「捨て金」
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