ごめん、それでも、すきなんだ
♯1〜43「日常編」
♯44〜「過去編(ヤス視点)」
♯66〜「距離編(秀介視点)」
♯87〜「閑話休題(孝臣視点)」
♯91〜「終末編(和臣視点)」
◆◇◆SBI完結◆◇◆
ご愛読ありがとうございました!
2011-12-08(木)
おかえり
あれから数ヶ月。三ヶ月たてば季節がかわるというけど、まさに、だな。
「さみー」
かじかむ手を温めながら帰路を急ぐ。街の飾り付けが派手で嫌になるし、なにより、いつか部屋の前で待ってんじゃねーかっておもうと 急がずにはいられない。
ここ最近、諦めきれずによく携帯をいじってしまう。ホストクラブを検索して、すげーつまんねーブログみて。たまにしゅーにぃが写ってんとほっとする。
ナンバーは少し落ちて、最近はだいたい4位。たまーに3位とか5位とかになる。
ホスト専用掲示板にも名前は出てるけど、前みたいに軽々しくオンナ抱かなくなったらしい。人気はあがっててすげー安心する。
しゅーにぃがクズなのは知ってるし、抱けるだけオンナを抱きたいと思ってんのもわかる。それでも、やっぱり嫌だし。
部屋の明かりをつけて、すぐに電気ストーブの電源をいれた。寒すぎてまじ死ぬ。
ついでに炬燵もスイッチいれてスーツのまま、コート脱ぎちらかして潜り込んだ。ぬくい。
あまりのぬくさにウトウトしてた時だ。ピンポーンと部屋のチャイムが鳴った。うるせーな。
なんだかあんまりこの気持ちいい空間から出たくなくて、無視してやったら、もう一回、ついでにもう一回ってチャイム鳴らされた。
「チッ……」
おもわず零れた舌打ち。いや、まじで。あまりに素で、自分でもがら悪くてびっくりしたわ。
「はい?」
「あ、あのー。お隣に越して来ました」
「はぁ」
「一応ご挨拶にと思ったんですけど」
「それはご親切にドーモ」
「あ、これも、よかったら。他の部屋の人、あんま、ドア開けてくんなくって……余っちゃったんで」
「さつまいも! いーんすか?」
「ぜひぜひー。実家で作ったやつなんで、形はあんまりかもですけど、味はいいんですよ」
「やったー。あざーす」
越して来たという純朴そうな少年はさつまいもがどっさり入った紙袋をくれた。世知辛い世の中だからね。ご近所づきあいとかみんな苦手なんだろーな。
「こっちは出てきたばっかり?」
「ハイ」
「じゃーたまに声かけてよ。土日とかなら遊び行けるし」
「ほんとですか!」
「おー。安いスーパーとかもおしえるよー」
ぱああっと顔を明るくした少年がかわいくて頭なでてたら、少年の背後で重い音がした。
びびったらしい少年は、咄嗟にオレのスーツつかんできて。オレも咄嗟にかばうように腕回しちゃって。んで、ドアから一歩出たとこで飽きれた。
「しゅーにぃ。二袋もビールばっか買ってどーすんの?」
「……」
「しゅーにぃ?」
「うるせー」
「ちょ、しゅーにぃ!」
落としたらしい。二つのコンビニの袋から、ゴロゴロビールが零れおちてる。
唖然とする少年の頭に手を置いてまたね、と挨拶をして。とりあえずしゅーにぃを追いかけないと。
急いで階段を降りて左右をみると、遠くの角を曲がる背の高い男が一瞬目に入った。見逃さなくて良かった。
走って追いかければ、角を曲がって少し行った先のコンビニに入ってく。見逃さなくて良かった。
「ませー」
「しゅーにぃー」
ヤル気ねぇ店員なんてスルーして、エロ本コーナーでオンナの際どいの見てるバカに声かける。
なんのつもりでオンナ見てんのかしらねーけど、そんな写真ごときでオレは揺さぶられねーぞ。
「ビール買いすぎだろ。こんな真冬に」
「うるせー」
「なに怒ってんの?」
「しらねー」
ため息でそう。っつうかガキかテメェ。
「しゅーにぃ、帰ろうぜ」
「やだ」
「さっき隣に越して来た子がさつまいもくれたから蒸そうぜ」
「なにそれ」
「トースターで焼いて焼き芋にする?」
「……ビールにあわなくね?」
「ふかし芋の段階であってねーよ」
ラックにエロ本戻して、しゅーにぃがオレを見た。
「あいつのこと、オレがいない間に引き込んでるとかじゃない?」
「じゃねーよ。初対面だっつーの」
「まじ?」
「まじまじ。ほら、帰るぞー」
「したー」
ヤル気ない店員の声をスルーして、しゅーにぃと一緒に冷たい空気にさらされた。家までの短い道を一緒に歩く。まるでそうするのが当たり前のように、しゅーにぃは角を曲がってすぐ、オレの手を握った。
週はじめの月曜日は、ホストは休みだ。店のやつと日曜の閉店後もがっつり飲んで、昼まで遊んで、しゅーにぃは帰ってくる。オレのところに、帰ってくる。
#98「おかえり」
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