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ごめん、それでも、すきなんだ


♯1〜43「日常編」
♯44〜「過去編(ヤス視点)」
♯66〜「距離編(秀介視点)」
♯87〜「閑話休題(孝臣視点)」
♯91〜「終末編(和臣視点)」

◆◇◆SBI完結◆◇◆
ご愛読ありがとうございました!
2011-12-01(木)
自殺願望

 幸せそうな二人を見ながら、多分オレたちの心境はこの場にふさわしくないもんになってた。と、思う。

「……、は」
「鼻で笑うなよ、兄貴」
「お前を笑ったんじゃない」

 少し離れたところから幸せの中心を見ていたオレの横にふいに現れて、タカにぃはグラスの酒を煽った。

「ほんと、ヤスにぃがあんな穏やかになるなんてなー。あの嫁知ってんの? タカにぃのこともすげぇいい人優しくてステキーみたいな目で見てたけど」
「オレは常に優しくてステキないい人だろ?」
「ヤスにぃみたいに見た目からクソヤンキーじゃなかったにしろ、ふつーに喧嘩も女も酒も大好きなタカにぃのが厄介だろ」
「失礼だな」

 ふんと鼻をならしたヤスにぃが視線を二人に戻す。白いドレスを着た桜さんを愛しむ優しい目で微笑むヤスにぃは、純白のタキシードを嫌味なくらい着こなしている。
 まじでかっこいーわ。オレなら惚れる。つうか桜さんの友だちがすげえ羨ましそうに見てるもんな。

「タカ!」

 タカにぃと二人してグラスを傾けていると、こちらに気づいたヤスにぃが全開の笑顔で声をあげた。
 タカにぃは呼ばれ慣れたその声に驚きもせず、軽くグラスを掲げて答える。あーあ。ヤスにぃに向いてた女共の目が兄貴にも向いた。

「おー。お前らけっこー飲んでんなー! 潰れんなよー?」
「潰れねーよ」
「ったく。タカはかわいくねーなー。かずおみぃー。癒やせー」
「ヤスにぃー」

 ぎゅーっと抱きしめて来たヤスにぃを抱きしめ返したら、なんか胸にこみ上げて来た。ぎゅーっと腕に力を込めれば、ようやく、ヤスにぃが震えていることに気づいた。

「……サクラに、」
「え?」
「あいつに、オレのこと、伝えてくれ」
「ヤスにぃ?」
「幸せに、なってほしいんだ」

 震える声で囁いたヤスにぃに、胸がつまる。きっとヤスにぃは、今でも櫻さんのことを忘れていない。忘れられるわけなんてない。仕方ないんだ、好きなんだから。
 それでも前を向いて歩き出した、そんなヤスにぃの強さに、タカにぃは惚れて、それで絶望したんだ。今も泣きそうな目をして無表情を貫いている。

「……わかった」

 答えたら、ヤスにぃが首筋に頭をぐりぐりしてきた。なんか、濡れてる気がするのはきっとヤスにぃの涙だ。

「……タカにぃ」
「なんだ?」
「泣けばいーのに」
「……柄じゃないんでね、オレは」

 オレから離れた時にはすでに笑顔だったヤスにぃは、ひとしきりタカにぃにまとわりついて次の人の元に向かって行った。残されたオレたち兄弟は、暗いオーラを放って酒を飲む。
 この美しく暖かな結婚式で、オレたち兄弟は心から世界を呪っていた。最低な失恋は、きっとずっと痛い。

「死にてーなー、くそー」
「同感」




#91「自殺願望」
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