ごめん、それでも、すきなんだ
♯1〜43「日常編」
♯44〜「過去編(ヤス視点)」
♯66〜「距離編(秀介視点)」
♯87〜「閑話休題(孝臣視点)」
♯91〜「終末編(和臣視点)」
◆◇◆SBI完結◆◇◆
ご愛読ありがとうございました!
2011-11-30(水)
さようなら、恋心
「ガキ、ねぇ……」
怒りを抑えるために握った拳は、爪が食い込んで痛んだ。けれどその痛みがなければ、今すぐにでも目の前のバカを殴り飛ばしてしまいそうだ。
席についてアイスコーヒーを注文した。ふたりが微笑んで、空気が柔らかい。居心地が悪すぎる。
「で、なんでまた」
「まぁ……」
「ふぅん」
言わずともわかる。けれど言わせてみたかった。
サクラに囚われて逃げられなかった自分を自覚して、逃げ道を見つけたんだと。きっとこのふたりは結婚する。その生活を完全に幸せなものになんてさせてやりたくなかった。
少しでも苦しめばいい。苦しんで耐えきれなくなって、オレのところに落ちてくればいい。
ドロドロの思考がヤスの周りに渦巻いて行く。
「タカさん」
「……はい?」
「ヤスくんから、タカさんの噂はいっぱい聞きました」
「それはそれは、よくないことだらけだったでしょう?」
「そんなまさか! 優しくて頼りになって、素敵な人だって。今日はお会いできて本当に嬉しいんですよ」
ふんわり微笑まれて、ささくれた心が更に痛んだ。オレはどうしたって女には敵わない。ヤスにとって唯一だったはずなのに、その唯一もサクラに奪われた。
ひどいだろう。滑稽だろう。
叶わないと知った恋に、どれだけ無駄な時間を割いただろうか。ヤスが見てきた優しくて頼れるオレは、お前に惚れていたからこそのオレなのに。
「やめろよ、恥ずかしいだろ!」
「あはは」
けれど、きっとオレじゃ、こんなに穏やかに救われたような表情を、ヤスにさせることはできなかった。
「ああ、そういえば、名前、聞いてませんでしたね」
「あ、すいません。谷中と申します。谷中、ーーーです」
彼女がトイレへと消えてすぐ、オレはヤスを見た。
「名前で女を孕ますなんて、さすがのオレでもお前を庇えないな」
「……きっかけは、たしかにそうだよ。合コン行って、人数合わせで来たっていうアイツの名前に引っかかった。でも、それだけでガキ作るほど落ちぶれてるつもりはない」
「は、どうだかな」
「……タカ」
「なんだ?」
「祝ってくれねーのか」
真顔なんてもんじゃない。今までに見たこともないほど、真剣で必死な顔だった。
「できれば祝って欲しい。オレはアイツと、……桜と、結婚する」
本当に、この兄弟はどこまで自己中心的なんだ。大嫌いで、それでも惹かれてしまう。
この血がその原因だと言うなら、生まれて来たことを悔やみ続ける和臣の心情がよくわかる。
「……オレ以上に、お前の結婚を祝えるやつがいるなら連れて来い」
「タカ……」
「おめでとう」
そして、
#90「さようなら、恋心」
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