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ごめん、それでも、すきなんだ


♯1〜43「日常編」
♯44〜「過去編(ヤス視点)」
♯66〜「距離編(秀介視点)」
♯87〜「閑話休題(孝臣視点)」
♯91〜「終末編(和臣視点)」

◆◇◆SBI完結◆◇◆
ご愛読ありがとうございました!
2011-11-26(土)
渇き


 カオから引き離されて、諦めきれずに何度かあの部屋へ行った。どんなにチャイムを鳴らしても、声をかけても、ドアを叩いてもカオは出てこなくて。
 挙げ句の果てには管理人を名乗るオッサンに通報されかけたから、もうあの部屋に行くのはやめた。

 どっかにぽっかりあいた穴はガンガン拡大してって、酒飲まなきゃやってらんねーし。溜まりまくる性欲のはけ口も必要で。
 酒のみながら軽そうなオンナに声かけてヤって、働いて、家で死ぬほど寝て。それでもこの渇きが癒されることはなかった。

「おひさしー」
「秀介」
「サクラさーん」

 この渇きをわかってくれる人が欲しかった。考えて思いつくのなんか、この人しかいなかったんだ。仕方ないじゃんな、そーしたら。

「秀介、まじでホストやってんだ」
「いやー、まじさいこーよ? 酒のんでオンナ抱くだけで金もらえんだもん」
「現場の仕事は?」
「いらっとすんから辞めちゃったー。あ、とりあえずビール」
「おー。まあ、お前がホストは天職なんだろーけど、タチ悪そうだな……」
「勃ちは大丈夫。勃たせる薬って高ぇんだけど、余裕で買える金あるから」
「シモの話じゃねーよ!」

 そう言って笑うサクラさんにビールをついでもらって一気に飲み干した。ビールくそうめぇなー。最近焼酎とかシャンパンばっかだからな。

「カズは知ってんのー?お前がホストやってるって」

 出た。オレとカオのセット販売。
 まぁでも、あっちから話フってくれたほうが楽なんだけど。

「んーん。縁切られたからね」
「は……?」

 絶句してるし。なにその顔、笑える。

「サクラさんさ、どこまで知ってんの? オレとカオのミスったの」
「それは……」
「なんも知らねーわけじゃないっしょ?」

 そう言うとバツが悪そうな顔をしたサクラさんに、もしかして、が確信に変わる。この人とナリナルあたりはオレがAV見てカオをヤリかけたの知ってるんだろーなって思ってたんだよね。

「まぁいいや。オレさぁ、なんかなりゆきでカオとふつーにヤってたんだよね」
「なりゆき、ってなんだよ」
「わかんないんだよねー。でもちょっとなんかあったらカオのこと抱きに行くくらい習慣になってて」
「なんだそれ……」
「それがカオの兄貴にバレてぶっ飛ばされて、カオから引き離されてさ」

 ガンガンビール煽って。アルコールが体に蓄積していく。

「会えないのって、キツくね?」
「まぁ、な」
「だからサクラさんに聞きたくてー。ねえ、サクラさん、ヤスのこと忘れるのにどんくらいかかった?」

 ガシャーンとガラスの割れる音が響いた。見ればサクラさんが手に持ってた新しいビール瓶を落として割ってた。

「うっわ、もったいね」
「おまえ、なんで……」
「なりゆき?」
「なりゆきってなんだよ?」
「なりゆきはなりゆきだよ」

 冷静を装って、サクラさんはオレに新しいビールくれた。どーも。

「兄貴なんだよね」
「なにが」
「ヤス」
「……ッ」
「坂井弥助は、オレの兄貴なんだよね」

 告げると、サクラさんは息を呑んで目を見開いた。

「ねえサクラさん。やっぱ忘れらんねーもん?」
「……け」
「え?」
「出てけ」
「なんで」
「出て行け!二度と顔見せるな!」

 いきなり激昂したサクラさんにびっくりして、それから心の内でため息をついた。

「……じゃーね」

 財布から万札一枚出して店を出た。最悪だよ。まじかよ。嘘だろ。
 どうやらこの渇きは一生潤うことがないらしい。

「はー。めんどくせ」

 残りの人生、最悪なもんになりそーだわ。



#86「渇き」
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