ごめん、それでも、すきなんだ
♯1〜43「日常編」
♯44〜「過去編(ヤス視点)」
♯66〜「距離編(秀介視点)」
♯87〜「閑話休題(孝臣視点)」
♯91〜「終末編(和臣視点)」
◆◇◆SBI完結◆◇◆
ご愛読ありがとうございました!
2011-12-10(土)
愛を込めて花束を
しゅーにぃがオレの部屋に訪れたのは、金をくれてやって別れてからそんなに日がたたない頃だった。
いつものように仕事から帰って部屋で飯作ってたら、玄関のチャイムが三回連続でなった。
それは、しゅーにぃがオレのとこに通ってた時と同じリズムで。迷いなく三連打って感じ。
ドキドキしながら玄関を開けると、ホストな髪型で、なぜか真っ白のスーツで、なぜかバラの花束持って泣きそうな顔してるしゅーにぃがいて吹いた。
いや笑うだろ!ドキドキとか吹っ飛んで普通に笑ったら花束で頭はたかれて。機嫌を損ねて走り去るホストを追いかけると、なぜかコンビニの18禁コーナーにいてまた笑うかと思った。
「ませー」
「しゅーにぃ」
ヤル気ない店員を無視して立ち読みしてるしゅーにぃに声をかける。そんなオレをしゅーにぃは無視してきて、もう苦笑いするしかない。
「しゅーにぃ?……ヒデ?」
「ヒデじゃねーよ」
「なに。会いに来てくれたんじゃねーの?」
「そーだけど」
「なんで逃げてんだよ」
「お前が笑うからだろ!」
「いや笑うだろ。目立ちすぎなんだよ、バカ」
くっくっと声押し殺して笑ってたら、しゅーにぃがムッとしてオレを見てきた。それからため息ついてた。
「なに」
「なんでカオ、そんな普通なんだよ」
「なんでって?」
「オレはこんなにドキドキしてんのに」
そう言って泣きそうな顔してるから、オレはまた苦笑した。
「泣くなよ」
「泣いてません」
「とりあえず帰ろうぜ? あ、ビール買って」
「おー」
「そーいえばしゅーにぃ、借金完済したの?」
「したから会いに来たんじゃん」
「そっか」
「んで店やめてきた」
「は?なんで?」
「カオのとこ、いていーんだろ?」
じっとこっちを見つめてくる純白ホストに、なぜか自信に満ち溢れてるバカに、胸がいっぱいになるなんて。負けた気しかしねー。
でもそんなんどーでもいい。負けたのはさっきのことじゃない。絶対、オレがオレとして生まれた瞬間から、オレは負けてんだ。
なにも言わないオレに、少し不安になったらしいしゅーにぃがオレの手をとった。
「いやだ?」
「んなこと言ってねーじゃん」
「……言わせないけどね」
言うなりしゅーにぃはカゴ持ってきてガサガサビール突っ込んでとっととレジ行って、袋に山盛りのビールを片手に、もう片手にオレを掴んで歩き出した。
オレの部屋まではあっという間だ。そのあっという間の間に、二人して何もしゃべらなかった。それからドアを開けて、しゅーにぃに思いっきり抱きしめられても、オレは何も口にしなかった。
「ごめん……っ」
真っ赤なバラの花びらが撒き散らされた玄関で、俺を抱きしめたしゅーにぃが言ったのはそんなくだらないことだった。
「カオ、ごめん……、ほんとに、ごめん」
背中に伸ばしかけていた手を思わず引っ込めて、オレの頭は一気に冷えていった。
「なにに謝ってんの」
「いろんなこと。オレがこの部屋でお前にしたこととか」
「くだらねー」
「お前がオレのこと好きなのわかっててそーゆーことしてた、とか」
「ッ……」
「それから、これから先に何があっても、もうお前をオレから離れたとこにはおけねーってこととか」
「はっ……」
「ごめん。ほんとごめん。それでもオレは、お前のことが好きなんだ」
腕時計をもらった誕生日に、タカにぃが言ってた。きっとオレらがヤツらにこの気持ちを告げたところで、ヤツらはきっと離れていかないって。オレらはヤツらをみくびってんだって。
今になって、その言葉に重みが増す。きっとヤスにぃはタカにぃに何を言われたって動じない。あの二人の間には確固とした絆があって、互いに向かい合った時に違う感情が行き来してたって関係ないんだ。
「しゅーにぃ……ッ」
「カオ。ごめん。今まで、オレは……お前のこと裏切ってきたようなもんだ。けど、それでも、好きなんだ。今更都合いいとか、そんなこと言われても、それでも、好きなんだ」
いつから気づかれてたんだろう。いや、そんな答えなんて無意味か。きっとオレがオレとして生まれた瞬間から、しゅーにぃはわかってたんだ。
「カオ、ごめん。それでも、オレは」
「好きだよ。ふざけんな。お前のこと、すげー好きだ」
何度も謝って、何度も好きだと告げてくる。頭悪いこいつが好きで仕方ない。
幼なじみで、バカみたいに顔が整ってて、うらやましいくらい背が高くて、気がきいて、誰にも分け隔てなくて、優しくて、意味わかんないくらい女にモテるのに、クズなこのバカのことが、ずっと好きで好きでたまんねぇ。
「しゅーにぃ」
背に伸ばした手でその体を抱きしめて、好きだと告げるための息は、しゅーにぃに奪われて消えてった。
#100「愛を込めて花束を」
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