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日記
2015-01-27(火)
本当に好きなのかって?…そうだね、プリンの次ぐらいには。

「ふざけんな!」

焼けるような衝撃と同時に脳天から火花が散る、なんて経験は初めてだった。幼馴染の本気の拳が、こんなにも痛いものだと言う事も初めて知った。

「直君、やめて」

直也の震える拳を両手で押さえた桃花は、俺の彼女で、直也の想い人だ。
泣いてる桃花に制止され俺を睨みつけるだけの幼馴染に、イテテ、と呟きながら俺は歪んだ笑みを浮かべる。
別々の高校へ進学して、徐々に連絡を取らなくなっていた俺を呼び出したのは直也だった。同じ学校に進んだ桃花の相談にのっていたんだろう。きっとそこには、ゲスイ下心なんて微塵も無い。お前はそういう男だよ。だから俺は、


「まだ、私の事好きでいてくれてるの…?」

俺を呼び出しそう心細げに縋りついた恋人に、だから俺は、微笑んで答えた。

「本当に好きなのかって?…そうだね、プリンの次ぐらいには」


―――で、冒頭の直也激昂に戻る訳である。

「ふざけんな……ふざけんなよ、ヒデ」
「ふざけてなんかないよ。俺はいつも、嘘なんかつかない」
「なら、なおさら最低だな」

小学校から一緒だった幼馴染との絆が、なんていうかこう、ポキッと綺麗に折れた音がきこえた。
泣きながらも未だ俺に未練を残す桃花を支えながら、二人は俺の前から姿を消した。ああ、色恋が絡むと歳月なんて意味がないよね。二人には幸せになって欲しいと、心から思うよ。


*****

「助けて、って。言わなかったんだね」

尻餅を付いたまま動かない俺の背後に、忍者みたいに近づいたのは―――現在の『恋人』
綿菓子みたいに甘い声色に、鳥肌が立った。

「なにから助けてもらうの?」
「このままだと、頭から全部食べられちゃうよーって。その可愛い口でお願いするのかな、って見張ってたのに」

くすくす笑いながら俺のうなじに唇を寄せて、歯をたてる。

「ヒデ君の恋人なんて……豚の餌にして山奥に捨てるか、ジジイの玩具にしてやるつもりだったのに。上手く逃がしてあげたんだね。僕の恋人は、愚かで慈悲深い」
「………俺に恋人なんか、いない」
「ふふふ、ヒデ君はほんとに嘘がつけないね。ホントのことも言わないけど」

あー、早く家に帰って鳴かせたい。

こぼれ落ちた呟きが、比喩でも冗談でもなくそのまま実行に移される。そんな事は、嫌というほど知っていた。
泣いても喚いても許されない。



俺を優しく包んでいた両腕が、水を染み込ませた縄のように、俺の体が軋む程に強く、何もかもを拘束した。
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