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あなたへの愛でこの両手は塞がってしまった


2011-12-08(木)
オフィスとラブモードフライデイ


西武池袋線の各停池袋行きに乗って10分。最寄り駅から徒歩5分。立地条件は極めて最高だ。
都心から離れ過ぎず、そして近過ぎずの中途半端な位置に浦原の勤めている職場がある。
朝の9時にタイムカードを押して夜の21時まで延々とパソコンの画面を見ては数字と戦っている。週5勤務の土日休みで手取り月30とちょっと。一般の営業マンよりは稼いでると自負している。
カタカタカタカタ。就業時刻10分前にはキー音とガヤガヤとした言葉の渦が交じり合う。やっと上がれる!妙なテンションの高さが音となって社内に響くのが少しだけ好きだ。
ピンポーン。就業時刻を回ると鳴るチャイムはどこか気怠いがもう聞き慣れているのですんなりと耳に入る。パソコンの電源を落とし週明けの書類を確認してデスクを片した後でタイムカードを切る。

「帰んの?」

きい、オフィスチェアの古めかしい音が鳴り、気怠い音源でそう問われたので浦原は振り返った。
垂れた瞳の琥珀色は少々疲れが反映されている。無愛想にも見える眉間の皺は彼が途方も無く疲れている証拠で、尖った唇は帰るなと浦原に告げていた。

「そりゃあ…帰りますよ」
「上司より先に帰んのか」
「自分の仕事は全て片付けてますからねえ」
「俺はまだだ!」
「あなたが溜め込むのが悪いんでしょうが!」

喋りながらでも視線はパソコンから離す事無くキーを叩く。カタカタ、カタカタ。同じ速度を保って鳴るキー音と低い声がマッチしていて耳に心地いい。

「後10分待て!」
「…帰って欲しくないの?」
「一人で帰るの寂しいだろう?」
「じゃあもっと可愛く言って」
「かえんな」
「かわいくない」
「…帰るな」

デスク前に立って腕を組めば更に眉間の皺を増やして睨み上げる。尖った唇に思いっきり噛み付きたい衝動を堪えながら浦原は黙った。
見下してきた金色に負けじと琥珀色も躍起になるが、花の金曜日に一人で帰る事はしたくないと、心が孤独に負けて折れた。

「帰んないで…」
「よし。合格。」

意図せずとも少しだけ潤んだ琥珀色に惚れた者負けの精神が先に折れた。それは内緒、と意地悪く浦原は微笑んで見せる。








フライデイをハッピーに変える方法


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