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あなたへの愛でこの両手は塞がってしまった


2011-12-04(日)
電車内のミスマッチ



電車内の視線を独り占めしてるにも関わらず、男は無表情で活字を追う。到底、頭が痛くなる様な漢字の羅列を金色の瞳がくりくり動いてはなぞる様に列を辿る。瞳同様、一纏めに縛った髪の毛も薄い金色で、男の成りとてんでマッチしていない。坊主…なんだろうかあの男は。きっと電車内ではそんな疑問符が好奇心より先に目前にある筈で、対峙する様に向かい席に座る一護もまた同じ目線で男を見ていた。
あれがお経とか詠むのかよ…。
携帯を弄る振りをして視線を男に合わせる。ちろ、ちろちろり。電車内で目を引く自身のオレンジもそうだが、男の成りは全く持って異質で、その美しい金色に一護のオレンジは霞んだ。
夕暮れ時の車内、通り過ぎる景色と窓から射し込む夕焼けが男の顔に影を作り出して冬のアンニュイさを醸し出す。益々、色濃く映し出されるミスマッチさに一護の瞳はとうとう釘付け。カチカチ弄っていた携帯も何時の間にか手の中でオブジェと化す。
え…。
我に帰ったのはカーブを曲がった時にゴトンと音を出して電車が揺れ動いた時で、目前の瞳が一護を見定めた時。
やべっ!思い慌てて目を反らそうとしても男がニコリ微笑んだので再び釘付け状態。
柔和に笑んだ男はふにゃりと柔らかい瞳を向けながらゆっくり口を動かした。一護にだけ分かるようにそれはもうゆっくり一文字ずつ無音の言葉を奏でる。

「……はあっ?」

思わず出した声は車内アナウンスに掻き消されたが、隣に座るフリーターらしき男は眠気眼で一護を見ていた。
がたんごとん。電車は5分程度の遅れでホームに着き、プシューっと耳障りな音を奏でながら扉を開いた
。フフ、意味深にそして嫌味ったらしく笑んだ男は口はしをクツリと上げてホームに降り立つ。
なにみてんだ、クソガキ。
あの薄くて冷たい印象を受ける唇はゆっくりと言葉を紡いでいた。
あの…生臭坊主!
ギリギリ噛み締めた唇。ゆっくり閉まる扉と気怠い車内アナウンスに二人の時間は見事に止まった。











いつかの再会まで後数日。


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