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あなたへの愛でこの両手は塞がってしまった


2011-12-01(木)
トマトクリームシチュー


浦原のクリームシチューは美味い。
ブロッコリーと人参、じゃがいも、ササミとほうれん草。ゴロゴロと大きい野菜たっぷりにトマトを大量に入れる。本来のクリーム色を失い、仄かに赤みのついた淡い色になるそれは桁違いに美味い。どんな有名店に赴いてもやはり、浦原が作るクリームシチューの方が美味いと一護は分かっている。
ただいまとお帰りなさいが蔓延る暖かな玄関先。仕事の疲れも浦原の笑顔に出迎えられたらたちどころに胸があったかになる。それと充満するクリームシチューの良い香り。
今日はなに?問えばにっこり笑顔でクリームシチューと答えるのだ。

「一護さん、好きでしょう?久しぶりに作ってみました」

微笑む浦原が愛しい。
クリームシチュー続きの夜は三日続いている。言わずに敢えて喜ぶ振りを決めたのは数年前だ。今では大分慣れた。三日続きのクリームシチューも、胸の鈍痛にも。

「久しぶりに食べたかったんだ。サンキュー」

笑えば浦原も笑う。
浦原は物覚えが少しだけ悪い。記憶障害なるものをレッテルとして背負い生き続ける男の城はキッチンだ。
息をして俺の側に居て、それで俺の事を忘れずにいてくれればそれでいい。一護はこれ以上の贅沢は望まなかった。全て平らげたシチュー皿には何も残らず、視神経に真っ白の底を見せ付けた。白を見ながら再度思う、これ以上の贅沢は望めないと。

「あ、そうだ一護さん。今日の夕飯はシチューですよ。好きでしょう?」

浦原が笑う。
一護の大好きな笑顔で笑う。
浦原が、笑う。

「うん。大好き。腹、ぺこぺこだ」

クリームシチューと大好きな笑顔で家の中は外よりもずっと暖かい。





暖かなクリームシチューは仄かに甘くて苦い


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