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心の臓に触れた棘
2010-12-21(火)
No music no life 9


なんだコレ……。
メンテナンスが終わり自動的に入った起動システムによりゆっくりと開いた瞼。視覚システムが映し出した光景はげんなりする様な絵で、シロはピクリと眉を動かしながら冷静にそう思った。
メンテナンス前は冷たいフローリングの上に座っていた筈なのに、今は黒いフカフカの敷布団と肩にかかる茶色いブラウンケットがシロを護る様に包んでいて、その前には横になったイチゴを抱く様にしてマスターでもある喜助がくうくうと健やかな寝息を立てて二人揃って夢の中らしい。

「……うっぜえ……」

項辺りにあるUSB接続部位からやや乱暴にコードを抜き、メンテナンスを終了させたシロは立ち上がって二人を超えようとした。

「シロさん?メンテナンス終わった?」

ソファで本でも読もうと思ったシロを呼び止めたのは低い掠れ声。イチゴを起こさぬよう配慮された小声がすんなりと鼓膜に内蔵されたシステムを揺さぶる。

「……おわり」
「そう。じゃあおいで。もう一眠りしましょう?」

空いている左腕を広げ、欠伸を噛み殺しながら言う浦原を少しだけ鬱陶しそうに見る。
そんなシロの表情を見て浦原はククっとなんとも意地悪そうに笑んだ。

「もうメンテは終わった。それに俺は機械だ。眠たいとか感じない」
「良いじゃない。機械だとか人間だとか。気持ち良いよ?ホラ、おいで?」

垂れ気味の瞳が凄く甘いと思う。
浦原は甘いマスクを持っているのに、その不衛生な無精髭が本人の持つ甘さをことごとくぶち壊しているからちぐはぐだ。
シロの手を取った浦原の手の平は冷たい。暖房の効いた部屋の中でさえもこの男は冷たい。人間なのに、変なの。
もっと変なのは浦原のその声色で、ボーカロイドでも無いのにやけに耳に残る音色だったりもして……なんだか逆らう事が出来ない。
シロはゆっくりと開かれたスペースへと横たわり、その腕に頭をおいた。

「お昼寝ごっこも、たまには良いでしょう?」

浦原を挟んだその右側からイチゴの寝息が聞こえてくる。
その音と浦原の奏でる低音のメロディが不思議と居心地が良く、シロは再びゆっくりと瞼を閉じた。
なんだか、初めて夢と言うものを見た様な気がした。









一緒にお昼寝。


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