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心の臓に触れた棘
2010-12-16(木)
No music no life 8

「……あれ?しろ?ねてるの?」

真っ暗い闇の様な瞳が対極的な白に覆われて隠されている。イチゴの声にピクリともしないシロを見ながらイチゴは首を横に傾げた。先程からこれの繰り返しだ。
リビングの中央に置かれたソファの横、大型液晶テレビの隅に隠れる様にちょこんと座ったまま微動にしないシロの周りをちょこまかと動き回る。

「しろー……しろ?ねえ、しろってば!」

どんなに声をかけてもその瞼を開かない。いつもなら「うるせー」だとか「ギャンギャン騒ぐな」だとか言うシロが今日はとても大人しい。
大人しいと言うか起動していない。シンと静まり返るリビングにイチゴの声だけが木霊してなんだか凄く寂しくて怖くなった。
肩に手を置いて揺さぶっても物言わないシロが、動かない体が。イチゴに恐怖心だけを積もらせ、その大きな眼を歪ませる。

「うう……っ、う……、ねえしろ……しろぉ……っ」

独りにしないでよ。イチゴはシロのお兄ちゃんなのに…今こんなに寂しくて怖い思いしているんだよ。
悲痛な声と共にイチゴのヘッドフォンからは物悲しいメロディが溢れ出て零れた。
モノクロの色彩を纏うメロディが冷たいフローディングに落ちては砕ける。

「あら?イチゴさん。どうしたの?そんな泣きそうな声出して」
「…ッ!!びええええっ!!キスケえええっ!!」

洗濯物を干しに行っていた浦原が煙草を咥えながら戻ってきたのに対し、我慢の限界が来たのか。イチゴは目にいっぱいの涙を溜めながらその足に縋りついた。

「えっ!どうしたの本当……イチゴさん?」

煙草を取って近くの灰皿へと押し付け火を消した後、屈みながら溢れ出た涙を優しく拭って頭を撫でる。
その優しい仕草が再び涙を誘うも、イチゴは途切れ途切れの言葉で精一杯に伝えた。この、寂しくて死んでしまいそうになる程の窮屈な思いを。

「しろが…しろが、ね…うごか…な…っ、う、うえええっ」
「…ああ……あのねイチゴさん。シロさんは今、おねんねしているんですよ」

ちょっと休憩しているの。
また優しく新たに流れた涙を拭う。大きく見開かれたハニーブラウンがやけに甘ったるい。そう思いながら浦原は優しく微笑んだ。

「…ねてる、の?ねてるだけ?じゃあすぐにでもおきる?」
「そうですねえ……あと少しかな?イチゴさんも一緒にお昼寝します?シロさんの側で」

燃える様なオレンジの髪の毛にキスをしながら浦原が問うと、イチゴはゆっくりシロの方を振り返って小さくうん。と言った。
それからは液晶テレビを台ごと少しだけ移動させ二人が横になれるスペースを確保した後、敷き布団とブラウンケットを寝室から持ってきてシロの側でゆっくりと睡魔に身体を預けて午後の昼寝を楽しんだ。









大人と子供が一緒にお昼寝しているのを見ると和みます。


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