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不透明な愛を君へ贈る


2013-09-06(金)
天国に一番近いハート


「最終段階のDNA改善プログラムには僅かなズレも欠陥も無かった筈です」

男は手に汗を握り締めながら震える声で小難しい事を呟いた。ブツブツブツブツ、青白い発色は男の不健康な表情をより不健康そうに見せ、まるでどちらが死骸なのか錯覚してしまう。ハっと息を漏らす男に目をやって、フウと溜息を吐き出す。

「浦原」
「何故だ、何も間違っちゃいない筈。いや、間違いなんて無いんだ。全て終わらす為にはこうする意外、…他に打開策は無かった」
「浦原」
「デオキシヌクレオチドの高分子を糖の3’位OH基とリン酸…否、なんら不備はない…HCOONH4とHCONH2…サルファ薬の時点でプログラムの成功は」
「…浦原。息をしろ」

薄暗い室内、大雑把な設備が施された部屋でモニタを睨みながら浦原は背中に暖かな熱を感じた。ハア、息を吐き出せばCO2が撒布される。撒布されたCO2は再び舞い戻ってきては心臓を圧迫させた。

「息、しろ」
「はっ、…ハ……黒崎さん…」
「ん」
「黒崎さん…」
「…うん」

手を伸ばせばガラスケース越しに彼が映る。青白い曇った抗菌室。何もない色もない無色透明でいて清潔で、すごく胡散臭いまっさらな室内。本当はチグハグでデタラメな癖に綺麗なのだと主張して押し付ける傲慢な世界の中で、彼は瞼を閉じている。

「黒崎さん…っ」
「うん…」

思いっきり腕を叩き付けたモニタの中はピーーーーと無機質な音が返答するだけ。答えを変えず、浦原にリアルを押し付けた。









"ごめんな"彼の声に似た耳鳴りが背中から響いた


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