[携帯モード] [URL送信]

不透明な愛を君へ贈る


2013-03-15(金)
彼が優しい日


その日は珍しく、彼が優しかった。
眉間に寄せられた皺は相変らず深く刻まれていたけれど、終始笑顔だった。眩しいなと思う程には無邪気に笑んでいた。コーヒーも淹れてくれた、アタシ好みの苦いブラックコーヒー。おまけにちょっと歪な形のホットケーキまで焼いてくれた。それぞれ形の違うパンケーキだったけれど、きちんと三枚、彼好みの甘さに仕上げられたホットケーキの上にはたっぷりマーガリンがのっかり、蜂蜜がかかっていて美味かった。
夜、一緒に眠ってくれた。二人で眠るには少しだけ狭いフロアベッド、窓の外では春の風がカタカタと窓を打つ。そんな暖かくも少しだけ冷たい夜。隣に寝転がる彼は手を繋いでこう言った。
"一緒に死んでやろうか?"
優しい優しい声色だった。珍しく彼が優しい日、優しい昼食に優しい木漏れ日に優しい春の訪れ、優しい夜に優しい瞳と優しい声に泣いた。
泣いて、そして目覚めた。
相変らず窓の外には寂しいグレイが広がっている。まだ春は訪れない、雪ばかり降る街に、春はもう、来ない。










春よこい早くこい(そして死なせて、お願い)


[*最近][過去#]









[戻る]

無料HPエムペ!