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不透明な愛を君へ贈る


2013-03-09(土)
ヴィンテージブルース・アンド・ロックンロール


ハーモニカのしらべは美しいと思う。不協和音にみせかけたメロディラインがあざとい旋律を奏でては重なる。ヴィンテージブルースロックンロール、でたらめに古びた音の背景にはいくつもの映像が浮かぶ。
テキサスのサンセット、場末のジャズバー、ラスベガスのフリーウェイにマイアミの浜辺、奏でられたスケールに乗って漂うのはそれぞれの故郷で、ハーモニカのしらべは少しだけセンチメンタルな気分にさせる。
庭へと続くバルコニーへ腰を下ろしリラックスした状態でAメロディを奏でた。まだ冬の冷たさを残した風が肌に痛い、羽織ったカーディガンだけでは足先が冷えてしまう。それでも構わずこうしてハーモニカを吹くのはこちらから見れるサンセットがあまりにも綺麗だったからだ。
"さむくねーの?"
風に乗って彼の声が聞こえた。
"さあて、どうでしょ"
ハーモニカを吹かす事でそう答えれば庭にあるブランコがキイと揺れた。風が漕いだのだ。
"酔狂だねえ"
"サンセットが綺麗、たったこれだけで理由になる事もあるんス"
"サンセット、ねえ"
"ほら、見て。綺麗でしょ"
"…ああ、綺麗だな"
"そう、理由なんて本当は必要ない。サンセットが綺麗、それだけで良いじゃないの。"
侘しい音が辺りに響き渡る。ヴィンテージブルースのメロディが夕焼けに吸い込まれるて赤く染まる。ああ本当に憎らしい程綺麗だ。
そう、理由なんてものは後からとってつける事が出来る曖昧な物。必然も偶然も理由付けた出来事の些細な部分でしかない。
浦原は空を見上げる。きっと、彼も見上げているに違いない。
"ねえ、アタシがこうして無様に生きながらえているのも、"
"都合の良い理由をつけるとしたら、サンセットが綺麗だから"
"…フ、サンセットが綺麗だから、か"
"ああそうさ。たったそれだけの事さ"
奏でた曖昧なメロディラインは終わりを迎えて夜が来て彼の愛しい声もどこかに消え去ってしまった。












ロックンロールみたいにアナーキーに生きるにも、ブルースの様にクールに生きる術もなく、ただ曖昧なメロディラインを奏でる為に明日へと儚い夢を夢見る。


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