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武田家の日常  武田さん家の日常風景です。大体季節小ネタ。 半分はやさしさ、あとの半分は汗と涙でできております。
2009-10-09(金)
お館様の、真に大事なもの



「台風への備えは完璧だ。」
「降りが激しくなったね。旦那、危ないから外出ちゃ駄目だからね。」
「・・・あぁああああああ!!!」

「ど、どしたの旦那?」
「お・・・お館様の兜を川辺で日干ししたまま忘れておった―――!!」
「ってあのフサフサだよね。何でわざわざ川辺で干したの!?いや、その前にそれって旦那の仕事なの!?」
「いいいいかん!!早く取り込まねば・・・!!」

激流の御勅使川。

「ぶ、無事であったか。良かった・・・。」
「全然無事じゃないでしょ!大将の兜、ずぶ濡れでサラサラストレートヘアーになってるじゃない!!」
「さ、さら・・・?すと・・・?伊達殿のような事を言うのだな。あっ」

ぽちゃん

「―――ああああああ!!!!」
「大将の兜が流され・・・!!あ、沈んだ。」

「大変だ!!」
「ちょ、駄目だ旦那!こんな濁流の中・・・!!」

(お館様の・・・お館様の大事な・・・必ず無事に持ち帰らなければお館様に申し訳が立たぬ・・・!!)
俺は川に飛び込み、泥水を飲み込みながらも必死に手を伸ばした。
(・・・届いた・・・!)

「―――がはぁっ!」
「旦那!待って、今縄を渡すから・・・、」

 「―――ゆきむらぁああああ!!!!」

(そのお声は・・・)

「幸村ぁ!!」

(お・・・館様ぁ・・・。)

駆けつけたお館様の力強い腕が、俺を一気に陸へと引き上げた。



「旦那、もう正直に話すしか無いよ。」
「わかっておる・・・。」
「大丈夫、大将の御心の広さは、旦那が一番よく知ってるでしょ?」
「・・・ぐしゅん。」
「ほら、鼻垂らさないでって。」

「幸村、ワシの兜はどうした?」
「!!!!」
「ん?」
「も・・・申し訳ございませぬお館様ぁ・・・。某の不注意で、こ、このように変わり果ててしまいましたあぁ・・・!!」
「なんと。」
お館様の兜は泥水を被り、枯葉や塵などが絡み付いていた。
「某、命ぜられた仕事も全う出来ないばかりか、お館様の大事な兜を傷ませ、あげく濁流の中に落としてしまうとは・・・何たる愚行!この幸村、いかなる処分も覚悟しております・・・。」
「幸村、顔を上げよ。」
「はっ。」

お館様は、ぼろぼろになった兜を俺の頭にかぶせた。
「兜などはまた代えを用意すればよい。それより・・・」

「自分の身を大事にせよ幸村。お前は、たった一人しかおらぬのじゃぞ。」
「お館様・・・。」



台風は過ぎ去った。


だが今も

お館様は、その兜を使い続けてくださっている。



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