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ショートストリー(SS)置き場

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2008-02-28(木)
Devils-Gate【前編】(SS)



〉背後から古くさい扉が開くような音がした。
『ギィィ…』と唸るような音だ。
 
振り返るとそこには何が有るわけでもなく、眩しい西日が俺の視界を遮った。

――バタン。

扉が閉じる音が聞こえ、辺りを見回したが、見えるものと言えばコンクリートの塀と住居くらいしか見当たらなかった。
俺は再び家路につくため歩きだした。

〉「ただいま〜」
俺は家の玄関で一声あげたあと、靴を脱ぎ捨てゆっくりと階段を登り自室へと向かう。
「あ、お兄ちゃんおかえり〜。お父さんとお母さん、今日は遅くなるって」
階段を登りきったところで妹が部屋から出てきて、そう言った。
 
〉妹の美麗は俺の1つ下の学年で、兄妹なのに似てない。そのせいか、どうも妹として見れないのが現状。
 
「じゃあ今日の晩飯は?」
「お兄ちゃん一人で食べて。私は楓ちゃん家に泊まりに行くから」
美麗は晩飯が無いという理由で他家へ避難するつもりらしい。
ちなみに美麗は料理が苦手だ。カレーは炭、目玉焼きも炭、米も炊けず炭にするほどの腕前で、
こいつの旦那になろうという奴は料理が出来なければ、とてもじゃないが無理だろう…。
 
「じゃ、餓死しないでよね。お兄ちゃん」
可愛くウインクすると勢いよく階段を降り、風の如く家を飛び出していった。
 
〉自室で着替を済ませ、一階の台所にある冷蔵庫をガチャ…っとを開けてみる。
「おぉ〜!」
と歓声をあげてみるも、冷蔵庫の中身はなに一つ入っていない。
マジで晩飯どうすればいいんだ…?
 
〉そんな悩み深い俺の耳にインターホンの音が響いた。
「は〜い」
小走りで玄関にかけて行き、靴を中途半端にはきながら扉を開けようとした途端、
扉の向こうで何かが光を放ち、突然の爆発音と爆風が俺を襲った。
玄関の扉と共に数メートル吹っ飛ばされ、壁にぶつかった俺の意識は軽くとびそうになったが、あんなとてつもない爆発音を聞かされては、ぼちぼち寝てもいられないと思い、意識を持ち直した。
俺は破壊寸前の扉をどかし、玄関の方を睨みつけた。

〉そこには俺と同い年くらいの少女がいた。
少女は紫色の長い髪と、短目のスカートをなびかせながら玄関を土足で上がってくる。
強盗か、通り魔か。もしくは新手の取立て屋だろうか。
そんな事が俺の頭を駆け巡る。

〉「やっと見つけましたわ…」
少女が溜め息を一つ。
俺は深呼吸を一つ。
「あんた、どちらさん?」
その場に座り込んだまま尋ねる。
「うちは一応土足厳禁なんだけど…。あと帰るときは壊したドアを直してから帰って頂きたい」
「あら、ごめんあそばせ。これでも力を制御したんですけど…」
いや、力の制御云々以前に、どうやってドアを吹っ飛ばしたんだよ。
「まぁ、いいじゃない別に。どうせ貴方はもう、私と同化しちゃうんだから…」
少女がそう言うと、あまり豊満ともいえない胸の内ポケットから真っ黒な鍵を取り出した。
そして一歩、また一歩と俺に近付いてくる。
「さぁ、開きなさい。
私が神になるッ!!」
少女は鍵を摘んだ手を突きだす。鍵は砂のように空気に溶け、跡形もなく消えてしまった。

〉すると座り込んでいる俺の周りが光だした。
そして俺を囲む様に文字と曲線が浮かび上がってくる。
混乱する俺をよそに、少女は呪文でも唱えるが如く口を動かす。
 
とにかく、この場を離れないと。
俺は立ち上がってみるが、どうやらもう手遅れらしい。
なぜなら手足が少しずつではあるが、粒子化して溶けている様だからだ。

〉「あぁぁ…」
少女が気持ち良さそうに息を漏らす。
俺の粒子化していく体は、流れるように少女へと向かっている。
『少女が吸収している』
という表現がピッタリだった。

〉実際、意識は遠退く一方だった。しかし、1つだけハッキリと聞こえた音があった。

『ギィィ…』

古くさい扉が開く音だった。そして次に聞こえたのが少女の悲鳴だった。

「――キャァァァ!!」
 
いつの間にやら床に浮かび上がっていた文字やら曲線やらは消え、
そのかわりに
少女の胸から背中へと剣が突き刺さり、血を噴き出してヨロヨロとしていた。
 
――バタン。
 
扉の閉じる音と共に、数枚の羽根が宙を舞った。
 
「大丈夫?」
背に生える真っ白い翼に金色の髪、瞳は翠で美しい少女が降り立った。
 
〉「ルシフェル、諦めなさい。人間と融合しても、神にはなれない」
「うるさいッ!! 」
ルシフェルは吐血した口を拭い、自ら強引に剣を抜いた。
剣は血を纏い、剣先から雫が垂れた。
「その人間は特別さ、ミカエル。何せ血の臭いが違う」
二人は互いのことを知っているらしい。
話している内容はさて置き、今は常識の範囲外にあるのだろう。
 
〉「貴方は堕ちた。
神になろうだなんて、私には理解できない」
ミカエルは自らの羽根を一枚取ると、魔法の様に一本の剣へと変えた。
一方のルシフェルは、血まみれの剣を両手で構え、黒い翼を羽ばたかせた。
俺はと言うと、粒子化していた体は元に戻り、腰を抜かしていた。
 
〉「あんた、ずっとその人間のこと監視してたんだろ」
「それが何…」
冷静だったミカエルの表情が少し歪んだ。
「本当の事を話してやろうか、人間?」
「本当の事…」
「あぁ、私たちは双子だからな…。片方の考えている事が互いに分か…」
風が空を斬った。ミカエルが不意を狙いルシフェルを襲ったが、避けられてしまった。
「何だミカエル。やっぱり図星か?」
「貴方が話す前に、この手で殺します」
羽根を数枚抜き、勢いよくルシフェルに投げつける。羽根は光を放つ短剣に変わりルシフェルを捕えた。
「とどめです!」
ミカエルが一歩踏み出し、剣を振りかぶった。
 
「アンタも堕天使だ…」
 
剣がルシフェルの心臓を貫いた。
 
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