SS×Short Short
2010-02-20(土)
月に願う -CCS-
「…主は」
「泣き疲れて眠っとる。…よっぽど堪えたんやなぁ」
木に腰掛け、月は窓枠越しに部屋の中を見やる。
小さな部屋の壁際にあるベッド。何かに怯える様に身を丸くして眠るさくら。
ケルベロスは肩からずれた毛布をかけ直してやると、まだ目元に光る涙を、ぬいぐるみのような手で拭った。
「…小僧は、どうしてもさくらに『あっち側』の世界を見せたくなかったようやな」
「…だろうな。だがしかし、主もいつまでも無関係というわけには行かなくなる」
「…せやな」
「この2人が想い合っているならなおさら、だ」
月はそう呟くと、空を見上げる。漆黒という言葉が似合う、全てを飲み込むかのような色。
ばさりと翼だけを羽ばたかせると、白い羽が数枚舞って、跡形もなく消えていった。
『月がなければ…星は、輝く』
意識を手放す前の、最後の一言。
浅くはない腹部の傷を隠すように置かれた手。
白とコンクリートを染める、黒にも見えた血。
近いようで何万光年と離れている存在。決して相容れない存在なのだと、言い聞かせるような声。
いつも前だけを見ていた少年の、あんなにも暗く悲しい声色を、初めて聞いた様な気がする。
「…難しいものだな」
守りたいと思う心はどこまでも純粋なのに。
守るべき手段は、どこまでも残酷で危険な道。
泣かせたくない守りたいという気持ちは、切ないほど伝わってくるのに。
「それにしても月、お前さんよう変身できたなぁ。今日は新月やのに」
「………」
「それだけさくらと小僧が心配だったちゅーわけか」
「…五月蝿い」
否定はしない反応を見て、ケルベロスは満足そうににっと笑う。
「照れんでもええ。わいらとさくらは仲良しやさかい、当たり前のことや」
「…ふん」
あるはずもない月を探して、2人はもう一度、漆黒の闇を見上げた―――――。
月に願う
(どうかこの2人が 幸せに想いを重ねるように)
――――――――――
先にあげた新月の続きのような話です。元々バレンタインネタとして考えていたものです。暗すぎてお蔵入りに…。
さくらが初めて小狼の危険な仕事を目の当たりにするシーン。
李家ってやはり危険な仕事もたくさんあるし、さくらを狙う人も沢山いそう。
そしてさくらを守るために小狼が傷ついてると知ったら、さくらはもっと傷つくだろうと思います。
リハビリにちょっとアップ。
「月に願う -CCS-」へのコメント
By ひのえ
2010-03-23 21:49
初めておじゃましました、はじめまして。
文章読ませて頂きました。上手く言えませんが、とにかくこの話いいな、と思ったことを伝えたくてコメントさせて頂きました。切ない感じ、とても伝わってきます。
CA002
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