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SS×Short Short
2010-07-14(水)
闇を厭う −CCS−







「お帰りください」

この言葉を聞いて、びくりと小さな肩が震える。
腕の中にある僅かなぬくもりを抱きしめると、ふるふると数度首を横に振った。
未だ震えの止まらない小さな身体を見て、祈るように静かに目を閉じると、彼、偉望は静かに言った。


「お帰りください。―――さくら様」

名前を呼ぶと、縋るように小狼様を抱きしめる。
襟元に顔を埋め、今の言葉を拒絶するように更にぶんぶんと首を振る。
抱きしめられている小狼様は、青白い右手を投げだし、不安定ながらさくら様の腕の中に居る。
彼女が着ている真っ白なワンピースが、じわりと血色に染まっていった。

『俺に何かあった場合…さくらは絶対、部屋に入れるな』

初めて公式に『仕事』に出る際、式服に袖を通しながら呟いた言葉。
伏せた瞳、闇に迫る背中。返事を拒絶した様にも見えたその姿に、ただ静かに一礼を向けた。
主は、小狼様は、恐れていたのだろう。
傷つくことよりも。滅さなければいけない目の前の敵よりも。己の運命よりも、何よりも。

さくら様に、自分の闇を知られてしまうことを―――


「さくら…」
「…主」
「小狼…君」

喉の奥から絞り出された言葉と共に、ぱたりと一滴、涙が落ちる。
それを合図にしたかのように、弱々しく開く琥珀の瞳。

「…小狼君っ!」
「…っ、さ、く…ら?」
「うん、さくらだよ…小狼君」

開かれた琥珀は、瞬時に悲しみに染まった。痛々しく口を弧にする。
力のない腕をさくら様の頬へ持っていくと、ぬるりと紅が、彼女の白い頬に跡をつける。
彼女がその手にすがるより早く、小狼様の手は涙で濡れた翡翠を覆い隠した。

「…ご、めん」

魔力で青白く光るに右手に現れる、李家独自の術式。
数秒後、手を離すと、翡翠は闇に沈み、その色は閉じられた。
意識のない彼女の体を支える、心優しき守護獣達。

「…た、のむ」
「あぁ…」
「じいさん、…小僧のこと頼むで」
「はい」

彼女の腕から、小狼様をゆっくり抱き上げる。
私でも抱きあげられる、まだ小さな身体。
この背中にどれほどの重いものを背負っているのだろう。
最後の魔力を使い果たし、闇に沈もうとしている琥珀に、小さく頷く。

「今はお休みください。あとはお任せを」
「あぁ…偉…」
「…はい」
「…か…く、な…。しら…、しか…」



独り言の様に呟いた唇は、瞳と共に音なく閉じられる。
身体以上に傷ついている、小狼様の心。
私にできることはただ、その身体を癒すことしか、なかった。







―闇を厭う―

泣かせたくなかった、知らないで欲しかった。

何よりも 彼が願っていたこと












―――――――――――
月を願うの続編チックなものです。
いつか完結させたい。
しかし、713近辺でアップするものではないですね…すみません。
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