[携帯モード] [URL送信]

偽りの名 呵々闘諍の日記(力水の書いたやつ) 決闘時空まとめページ
2012-11-12(月)
決闘時空(デュエルスペース)第五話 Part1

2008年、プロデュエリストになって約2年、穂村 龍一(ほむら りゅういち)は最悪だったっ…!
正月が明けてから1回も勝てていない。専属マネージャーもおらず、彼女もいない。
毎日しょぼい酒としょぼい酒の肴としょぼいデュエルの日々。
そして、その鬱憤を晴らすために、町のギャングたちとストリートデュエルするという虚しい日々っ…!
それでも、いつか輝かしい未来が待っていると信じている。
好きな言葉は…「別にあんたのためにやってあげたんじゃないんだからねっ!」


決闘時空 第五話「作る者」Part1


「くそぅ、何故勝てない!シュミュレーションでは完璧!ストリートデュエルでも負け無し!なのに、なのに、どうして、プロリーグでは勝てないと言うのだっ!」
人気の無い路地裏で穂村は酒に酔い潰れて愚痴をこぼしていた。今日もまた彼はプロリーグで勝ち星を上げることができず、ギャングたちとの賭けデュエルで巻き上げた金で酒に浸っていた。
酒の飲み過ぎで店主に注意されると、穂村は逆上し、いざこざとなった。店の者に警察を呼ぶと脅された彼は一瞬、冷っとして冷静さを取り戻したのか、文句を言いつつ、店を出て行った。その後は、コンビニで酒を買って今に至るわけである。
「いつからだ、いつから勝てなくなった…?いいや、解るはずだ。あれは、3年前に天神 美月に負けてからだ!俺は天神に負けた!負けた後も、天神以外のやつには勝てていた!全国大会でも負け無しだった!だが、天神は俺がリベンジする前に引きこもるようになった!俺はやつに勝ち逃げされたのだ!それから俺はどんなに勝利を得ても実感が湧かなくなった!いつしか俺は勝ちも負けも解らなくなった!そして、ついには、負ける様になった!ぐおおおおおおおおおおおおおお!!」
穂村は酔いと怒りで暴走し、そこらにある壁に拳をぶつける。何度も、何度も。血が出ても、皮が剥がれても殴り続けた。酔いで痛みは感じていない。勝利に対する実感を失っている今の彼の様に。
壁を殴り続けていると次第に酔いが醒め、自分の拳が血まみれになっていることに気がつく。痛みなのか、悲しみなのか、それともその両方なのだろうか、穂村は涙を流し吠える。
「んふふ。自分語りお疲れ様。」
「誰だっ!?」
穂村は声のする方を振り向く。そこには真っ黒なゴスロリ衣装で着飾った少女がいた。背丈は小さく、120cmくらいだろうか。黒いリボンで結ばれたポニーテールの黒い髪、丸い眼鏡を掛け、黒い手袋をしており、夜だと言うのに黒い日傘を差している。
「子供か…。こんな人通りの少ない所で一人で出歩くのは危ないぞ。親はどうした?」
落ちぶれているものの、穂村は子供に手を出すほど腐っていはいない。黒尽くめの少女を心配するが、少女は不気味な悪いを浮かべ、一蹴する。
「んふふ、穂村 龍一プロだね。」
「底辺の俺のことを知っているとは…。君はモノ好きなファンかな?なんてな…。」
穂村は自虐的に返事をする。しかし、内心では自分のことを知っていてくれる存在がいてホッとしていた。
「そうだね、ボクは穂村プロのファンだよ。それで、良かったらこのカードを受け取ってもらえないかな?」
「…これは?」
少女の右手にはいつの間にかカードがあった。少女は穂村にカードを手渡す。穂村はカードを受け取ると、徐々に気分が高揚していった。
「なんだ、このカードは…!?だが、悪くない、悪くないぞ!心が満たされる!無限に力が湧いてくるようだ!」
「んふふ、気にいってもらえたようだね。……穂村プロ、お願いがあるんだけど。」
「なんだ?俺に出来ることなら何でもするぞ!」
気分がハイになり、上機嫌に穂村は返事をする。今の今まで酔いつぶれていた人間とは思えないほどやる気と自信に満ちた顔だ。
「あのね、天神 美月さんって知ってるよね?」
「天神 美月…!」
天神の名前を聞き、穂村は頭に血が上り、興奮して息を荒げる。怒りと憎しみが自分の腹の中から逆流するようで、不快感で心が侵されそうになる。
「穂村プロにリベンジしてもらいたいんだ。ボク、天神さん嫌いなんだよね。ボクの大切な人を奪ったんだよね…。」
「そうなのか…。頼まれなくても俺はやるがな。」
穂村は何の躊躇も無く少女の願いを聞き入れる。少女の言っている事を考えようともせず、理解しようともせず。
「お譲ちゃん、名前は?」
「ボクはね、ミ・イザナって言うの。よろしくね、穂村プロ。」
「ああ、よろしくな、ミ・イザナちゃん。」
穂村とミ・イザナは握手を交わす。それが、悪魔との契とも知らずに。
「さて、ミ・イザナちゃん夜も遅いし、送ろうか?」
「ううん、すぐ近くだから大丈夫。頑張ってね、穂村プロ!」
「そうか、頑張って来るよ!」
穂村はミ・イザナとさよならの挨拶を交わすと、家へと帰って行った。
それを見送るミ・イザナはぼそりと呟く。

「頑張ってね、穂村プロ。ボクと吉井君のために…。」



10月22日、私立翔武学園高等学校にて
今日一日の授業の終了のチャイムが校舎を響き渡り、勉強から解放された生徒達は肩の荷が下り、解放感に満ち溢れていた。放課後の始まりである。
吉井、天神、見城の3人は同じクラスであり、彼らもまた、授業が終わり安堵していた。
特に喜んでいたのは見城である。彼女は授業の前半は興味を示し、カリカリとノートに授業内容を書き込んでいくのだが、後半に進むにつれて集中力が失われていくようで、ノートに使うはずのペンはペン回しの道具と化していた。
「いやぁ、終わった、終わった!こうも一日の授業の終わりが清々しいと癖になるな!」
「見城さんは前向きで良いですね。僕は授業に追い付くのに精一杯であまり良い気分にはなりませんよ…。」
見城と対象的に真面目な吉井はずっと授業に集中し続けているため、息抜きする余裕が無いのか、疲れている様だ。吉井が近くの席に目をやると山本と渡辺も自分の脳の限界を超えているのか、頭から湯気が出ている様であった。
「吉井君、もうちょっと気を緩めたらどうかしら。集中するのも良いけど、後が辛いわよ。」
「そ、そうですよね、天神さん…。」
天神が母親の様に優しく語りかけアドバイスをすると、吉井は少しだけだが元気を取り戻した。
「そうだぞ、吉井。なんたって、アタシたちにはこれからやらなきゃならないことがあるからな。」
「これからが大変ですよね。なんたって僕らは…。」

「「大庭さんから詳しい話を聞かなきゃいけないですからね。」」
「学園祭の準備があるからな!」

3人が同時に声出すと、一人だけ別のことを言っていた。
「見城さん?」
「あ、え、ええと、そうだったな…。」
天神は見城が何を言っているのか再度尋ねると、見城はそっぽを向いて返事をしていた。
「見城さん、気持ちは解りますけど、ここは学園祭成功のためにも安全を確保しなきゃいけないかと。」
「う、うう…。解ってるって…。」
吉井の説得によって見城は渋々納得する。
今、自分たちのまわりでは学園祭に向けて生徒達が協力して物作りを行っている。吉井達のクラスの出し物としてはお化け屋敷を予定としている。近隣のクラスでは屋外での売店が出し物となっているため、使用しない教室を借りて、教室5つ分の巨大なお化け屋敷の制作に取り掛かっている。
先日、見城が夜の学園に行こうと言いだしたのも、このことが関係している。お化け屋敷に都市伝説の少女の要素を入れてみたらどうかと考えてのことである。
「さ、見城さん、大庭君のクラスまで行くわよ。」
「行きましょう、見城さん。」
「うう…。さらば、愛しのお化け屋敷…。」
見城は吉井と天神に引っ張られながら教室から出て行く。見城は終始名残惜しそうであった。

吉井と天神は見城を引っ張りながら基のいるクラスに着く。
基のクラスは吉井達のクラスから少し離れている。廊下では学園祭の準備のためにダンボールの切り出しや大きな絵を描いたりしており、すっかり学園祭ムードであった。それに吸い寄せられそうになっている見城を止めるのに吉井と天神は苦労した。
「着きましたね。どうやらこちらの方でも学園祭の準備と言う事で盛り上がっているようで。」
「ええ、そうみたいね。楽しそうな声が聞こえるわ。」
「良いなぁ…。」
基のいる教室の中では生徒達の賑やかな声が聞こえてくる。この雰囲気に取り残されていると思った見城は落ち込んでいるようだ。
「「失礼します。」」
元気の無い見城に代わって吉井と天神が扉を開ける。すると、3人の前に盛大な出迎えがあった。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」
3人を出迎えたのはメイド服姿の数人の生徒であった。
「え、あ、はい…。」
予想だにしなかった事態に吉井は戸惑っていた。状況整理に少しの時間が必要であるようだ。
「吉井君、クラスの出し物よ。ここのクラスではメイド喫茶と執事喫茶を開くのよ。」
「あ、そ、そうだったんですか。」
吉井は教室内を見渡すと生徒達がメイドや執事の衣装を着ているのを確認する。だが、何か違和感を感じていた。
「ご主人様、何か御用でしょうか?」
一人のメイド服を着た生徒が尋ねてくるとその違和感の正体に吉井は気付いた。ここにいるメイドは全員、男子生徒だ。
執事もよくよく見ると胸があり、女子生徒だと言う事が窺える。
「ここは、男女が逆転している喫茶店なんですね。びっくりしましたよ。」
「ええ、普通のメイド喫茶や執事喫茶では面白味に欠けますからね。こうやって、趣向を変えているんですの。」
メイドに成りきった男子生徒は声色も変えていた。初見では女性と聞き間違える程上手い声真似だ。
飛び交う生徒達の声を聞いていても、男子は女子、女子は男子の声真似が素人とは思えないほど出来あがっていた。
「吉井君は知らなったのね。大庭君のクラスって、中性的な人が多いのよ。男子生徒は女性らしい可愛さがあって、女子生徒は男性らしい凛々しさがあるの。」
「そ、そうだったんですか…。」
「アタシも知らなかったぜ…。ということは、大庭も…。」
「あ、大庭さんですね。あちらにいらっしゃいますわ。」
メイド男子が手で教室の端っこの方を指し示す。その先には執事女子に囲まれて飾り付けをされているメイドの姿があった。
「大庭君、この猫耳付けてみて!」
「虎耳の方が良いよ!」
「ウイッグは金色の方が良いんじゃない?」
「は、はあ…。」
執事女子に玩具にされているようで、メイドは困り果ててるようだった。包囲されていて逃げ出そうにも逃げ出せない。
「大庭さん…ですよね?」
「大庭君、お取り込み中のところちょっと良いかしら?」
「お、大庭?」
「あ、あ…ああ、ああああああ!!」
基は3人に自分のメイド姿を見られて慌てふためく。出し物ということでメイド姿になっているが、本人にとってはとても恥ずかしい格好である。
「ぷ…あはははははは!!」
「け、見城さん…。」
落ち込んでいた見城は基の姿を見て元気を取り戻したのか、爆笑していた。地毛と同じ色の黒髪の長いウイッグを付けているのもあるが、異常なほどにメイド姿が似合っており、見城は腹を抱えながら笑っていた。
基はと言うと、好きな見城に笑われて羞恥心でいっぱいになり、顔が赤くなっていた。吉井と天神はその様子を見て苦笑いしている。
「うにゃああああああああ!!」
基の叫び声が教室に響き渡る。

続く
「決闘時空(デュエルスペース)第五話 Part1」へのコメント

By アッキー
2012-11-13 00:43
栗原さんに続き、穂村龍一が出てきましたか・・・。
この調子で、かつての生徒会メンバーが全員登場となると面白そうですが。

山田「同窓会か?」

それにしてもミ・イザナが可愛いぞ!
大切な人を奪ったとのセリフで一瞬アザトさんとドリームリンネの対決が頭に浮かびましたが・・・吉井くんの方か!!
思えば、ミ・イザナの封印を解いたのは吉井くん!
なるほど・・・恋愛フラグが立つ要素はあったのだ!
これはニヤニヤせざるをえないですね。

そして後半っ! 更なるニヤニヤが待ち受けていたっ!
ほのぼした雰囲気の中で、特に見城さんが癒しキャラすぎる・・・!
これでニヤニヤしているところへ、男女逆転喫茶・・・だと・・・!
基くんが男の娘になっちゃった!
思わず椅子から立ち上がりそうになったぞ・・・。

佐久間「中性的な生徒が多いのか。おいマサキ、喜べ。」
マサキ「何を喜べと・・・?」
佐久間「男装女子とか好きじゃないのか?」
マサキ「そりゃ好きだけどさ。」
佐久間「で、お前の男友達は中性的な奴が多いという話だが。」
マサキ「ほら、やっぱりな! そういう話かと思ったぜ!」
山田「ヒノエなんてガチで女装してたしな・・・。」
マサキ「何で俺の周りには・・・いや、文句じゃないんだが。」

何気に細かいのが、それぞれの成績が授業の様子に顕れているところですね。
確か1学年200人の中で、見城さんは50位くらい。集中力が失われていくのは、退屈ゆえか。
吉井くんは100位くらいで、山本・渡辺が150位前後。天神さんは10位以内。
まさにそれぞれの順位に相応しい様子。


PS:今回の話とは関係ないのですが、ふと思った想像。
予想とも言えないくらいのレベルですが、基くんと、我龍、霧恵、エリィ、愛縷の関係。
もしや、魂が繋がっているとか、多重人格とか、前世とか来世とか、そんな感じなのでは・・・?
好きな人には無類の愛を注ぐところとか、どことなく辛辣な物言いとか、けっこう共通点があるような。
一番の共通点は、揃って見城さんが好きなところ。
基くんが“気付いてないこと”というのが明かされていませんが、こういうことだとすれば辻褄が合いますね。
そう考えると、愛縷が我龍のカードを持っているのも不思議ではないわけで。

pc
[編集]
By 呵々闘諍
2012-11-13 01:28
>アッキーさん
このまま、前生徒会は揃うのか!?私自身、揃えられるか解ってません(笑)

吉井君LOVEなミ・イザナちゃん。その理由は解放以外にもあったり。
決闘時空ってこういう愛のお話。

見城さんは学園祭とかあると一番はしゃぎそうなキャラですからね。酷な事してますよ、今回は…。

学園祭と言えば、喫茶店!男女逆転は結構あるんじゃないかと思い、基には犠牲になってもらいました。
べ、別に女装とか男装ネタが好きなわけじゃないんだからね!(大好きです。特に恋愛が絡んで来ると。)

せ、成績にそんな細かい設定が!み、見逃してました…。
ただ、見城さんは成績悪く無いと思ってました。以外に頭キレるので。
吉井君は生真面目が空回りするのと、山本君や渡辺君の影響で勉強の効率が上手くいかなさそうなんで。良くもなく、悪くもない。

P.S.について
名は体を表します。それ以上は語れませんね。
pc
[編集]
By 豆戦士
2012-11-13 01:33
 あっちでもこっちでも決闘学園外伝の連載が始まってて大変だー!(嬉しい悲鳴)


>前回までの感想

 佐野&朝比奈のコンビが、そこまでチートでもない能力持ち相手に、普通に負けた、だと……?
 なんというインフレーション。さすが決闘都市。
 ……や、あれを「そこまでチートでもない」って言う時点で感覚がマヒしてるのは十分承知していますけども。

 基本的に決闘学園本編やアッキーさんの番外編に出てくる敵の実力者は、これ持ってりゃ普通どんな相手にも負けないだろ的な意味で非常に防御的な能力を持っているケースがほとんどなのですが、決闘都市は実に攻撃的なチート能力持ちがメインですよね。
 それこそ例えばメギドラゴンが出てきた瞬間に激流葬でも打てば普通に破壊できるんだけど、1回でも攻撃を喰らうと壊滅的な被害を受ける、みたいな。


>今回の感想

 決闘学園に日常パートだ!
 普通に考えれば2とか3の冒頭で入れとくべき日常パートだ!
 デュエルこそが彼らの日常パートですよ? と言い張った本編とは一味違う正真正銘の日常パートだ!

 アッキーさんのコメントを見て、おお私のイメージとぴったりだと思いましたが、どっかのチャットで私自身が言った気がする……。



 それでは、設定や新キャラが増えすぎてそろそろついていけなくなってきた豆戦士は炎に包まれて退場します。

pc
[編集]
By 呵々闘諍
2012-11-13 02:08
>豆戦士さん
お、おかしいな、結構チートな能力なハズなのに…(笑)
メギドラゴンですが、怒炎我龍の能力で出すと激流葬は使えませんね。怒炎我龍の後半テキストにエクシーズ召喚成功時に召喚反応系は使えない様になってますから…。

デュエルが日常パートについて
ぐは!デュエル小説ならそうですよね…。
しかし、決闘時空は番外編中の番外編!
デュエルしないデュエル小説があっても良いじゃない…。
では無く、準備期間です。終盤はデュエルパートだらけになりますから、それまでつかの間の休息を…。(日常はゆっくり壊すのが私のクオリティ)

増えすぎた設定について
見城さんと基以外は全部読み飛ばして問題無いです(オイ
そういう物語なんで(苦笑)
pc
[編集]
By 千花 白龍
2012-11-15 21:35
穂村プロ、哀れ…。これから更に悲惨な人生を歩む気がしないでもない。早く助けてあげて、吉井君、大庭君、見城さん。天神さんをぶつけると逆効果そうなので。でも何となく彼の暴走を止めるのは天神さんの仕事のような気もしてきました。
そして大庭君の赤面タイムスタート。大丈夫…恋愛フラグは折れてないから…。(←慰めになってない。)
pc
[編集]
By 呵々闘諍
2012-11-15 22:02
>千花 白龍さん
悲劇の穂村プロ!
アニメとかで出てたプロデュエリストの扱いって悪いんですよね。
そりゃ、悪い勧誘が来ますよ…。

さて、誰が助けてくれるかな?!

恋愛フラグは立ってもいませんね(笑)
基みたいな性格だと永遠に立たないかもしれません。
積極さが足りん!

pc
[編集]
[1-10]
コメントを書く
[*最近][過去#]
[戻る]

無料HPエムペ!