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日記やネタ倉庫 思い付いた物を書くので、続かない可能性大。
2014-12-21(日)
とある龍の話2(江戸)

こぽこぽと水音が響く

暖かい
暖かい

日青は揺らめきながら此処が夢の中だと分かっていた
目の前に手をかざしても分からないくらい周りは暗い
手を伸ばしてみると、すぐに堅い壁に当たった
足を伸ばしてみても、同じく堅い壁に当たった
そこは小さな小さな部屋だった

日青が水を飲みすぎた時に見る夢がこれである
幼い頃は怖くて泣きわめいたものだが
今は昔から何度も見ていたから馴れたものだ
いつものように日青は壁に耳をつけて目を閉じる

耳を澄ますとワツワツと声が聞こえた

誰かが壁の向こうで話しているのだ
だが、分厚い壁は言葉を跳ね返してしまう
日青が理解できるのは音の僅かな高低と強弱のみである
それがワツワツと聞こえるのだ

何と話しているか分からない声
年齢も性別も分からない声
日青は夢の中で聞くこの声が大好きだった

まるで母の子守唄のように
まるで父の大きな掌のように
その声は日青の魂に染み込む

そこはまるで母の胎内
危険からも怖い事からも危ない事からも
全てから守ってくれる場所

そんな場所で日青が幸せな気分に浸っていたところ、唐突に男の声が聞こえた。

【思い出せ】

何を?そう言ったと思ったと同時に、周りの水が冷たくなった。変わったのは温度だけではない。先程までは暖かいとろみのある温水が日青の体を包んでいたが、それが突き刺さるように冷たい流水にいつの間にか変わっていた。

冷たい流水は日青の体の周りをグルグルと回り、日青の体は周りの壁に激しく叩き付けられる。日青は悲鳴をあげるが、ゴボゴボと泡が吐き出されるだけである。

【目を開き聞け】

また男の声が響いたと同時に、激しい首の痛みが日青を襲った。金属の金具を喉と鎖骨の間辺りに差し込まれ、無理矢理左右に開かれているような痛み。

痛い!

喉が裂ける。思わず自らの喉を両手で押さえるが何もなく、痛みは更に酷くなるばかりである。メリメリと喉が開いた気がした。実際に喉は裂けていないが、何かが剥き出しになったと感じた。それを理解した瞬間、かっと顔が熱くなった。日青は理解していないが、それは紛れもない羞恥であった。

やめろ!見るな!触るな!そこを触って良いのはお前じゃない!よく分からないまま叫んでいた。誰なら触って良いのか?何を触って駄目なのか?分からない。分からないが日青は凄まじい拒絶を示していた。

そんな日青の拒絶を無視して、【そこ】から何かが入り込んで来る。それは例えるならば、女陰(ほと)に経血を流し込むような、そんな気色の悪い感触であった。痛みとおぞましさに意識すら曖昧になった日青だったが、朦朧とする中、【そこ】から何かが入り込んで来る度に外から聞こえる声が大きくなる事に気がついた。


………………………
………………………
さ……し……びし……
……のは……し……
なぜ………き……?
……は……を……愛し……
は……く……出……て……
寂し……よ
なぜ……きら……?
もう、何千……待……
寂し……堪ら……い
お願……出てき……
もう…ひとり…は辛……い
一人は……嫌……
一人……は……辛い
さびしい
さびしい
さびしい

途切れ途切れの声を聴いた瞬間、意味を理解した瞬間、痛みは意識の外にいった。相変わらず痛みは続いている。しかし暴虐な痛みを押し退けるような深い悲しみが、日青の心の奥底まで満たしていた。

【思い出せ】

日青は叫ぶ

それは新たな苦しみの始まりだった。

配慮もなく注がれる何かによって呼び起こされる悲しみ、哀哭、悲嘆、悲哀、絶望。それは人間が持つはずのない、長さと深さであった。それが自分の中にあり、無理矢理ほじくり突き付けられる。

その衝撃は日青の魂をバラバラに砕こうとしていた。日青の魂を砕いて砕いて磨り潰して、その奥の何かを引きずり出そうとしていた。

日青は誰かの名を叫びながら助けを求め苦しみ続けた

薄暗い座敷牢の中、目の前で苦しむ日青を見て豪商は笑っていた。

「ようやく、見付けたぞ。晴れの龍」
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