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日記やネタ倉庫 思い付いた物を書くので、続かない可能性大。
2014-12-26(金)
とある龍の話3(江戸)

日青が目を覚ますと、そこは座敷牢だった。床には真新しい畳が敷かれており幾つかの家具が置かれているが、壁や床は石材が剥き出しな為、寒々しい印象である。そこに敷かれていた布団の上に、日青は寝かせられていた。

「目を覚ましたか」
「ひぃっ!?いひいいいい」

起き上がった日青が訝しげに周りを見ていたところ、座敷牢の格子の前に立っていた豪商の主に話し掛けられた。

情けない悲鳴をあげながら後ずさった日青は、部屋のすみに置かれた箪笥の方に這っていき、その影に隠れて踞った。その無様な様子を、豪商は憐れむような瞳で見つめる。

無言で佇んで自分を見つめてくる豪商に、日青の恐れは膨らむ。

なにせ、豪商によって拷問ともいえる所業を受けたのだ。実際、日青でなかったら腹が破裂して死んでしまっただろう。意地の悪い顔付きであるが、日青は全うに生きてきた気弱な男である。痛いのも苦しいのも大嫌いだ。拷問とか監禁とは無関係で過ごしていた日青にとって、豪商の惨い所業は彼の心に恐怖を刻み付けた。

「だ、誰にも言いやせん。すぐに町を出ていきやす。ですからどうか、帰してくだせぇ旦那様」

なんとか震える両手を擦りあわせた日青は、頭を下げて豪商の主に請う。その顔は真っ青であり、憐れにつきる。それを見た豪商は一寸だけ間を置いて応えた。

「それは駄目だ」
「お、おねげぇ致しやす。金ならば払いますゆえ、どうかどうか」
「駄目だ。何故ならば数日後に君は死ぬからだ」
「は……?え?」

死と言う言葉に咄嗟に反応できない日青に、豪商は淡々と告げた。

「喉仏の辺りを触ってみなさい」
「え……これ……は?」

豪商の言葉に従い首を触ってみると、違和感があった。それは堅く膨らんでおり、ツルツルとした触感をしていた。呆然としていた頭が恐怖によって動き出した。首に巻かれていた包帯を震える指でほどくと、喉仏の辺りに球体が埋め込まれていた。親指の爪くらいの大きさの球体が肉の中に埋もれているらしく、滑らかな曲面は日青の皮膚の下に潜り込んでいた。

異変はそれだけではない、珠から広がるようにして何かが生えていた。

「君からは見えないだろうが、それは鱗だよ。美しい、澄んだ青空の色をしている」
「う……うろ……うろ……うろこ?」
「恐れる必要はない。それはあるべき物なのだから、生えても何も不思議じゃない。ただ、その鱗が全身を覆った時、君という存在は死ぬがね。残念だが仕方がない。それを乗り越えれば、【君】はその肉の檻から解き放たれる。やっと、【君】との約束を果たす事ができる所だったのに」
「何を言っているのか、訳が分かりやせん!もう、やめてくれ」

豪商の言葉は次第に熱を帯びて大きくなり、常軌を逸してくる。豪商の言葉や異常な状況に、日青は頭を押さえて踞る。それでも豪商の言葉は止まらない。

「君が分からなくても【君】は分かっている筈だ。さっきは何で出てこなかったんだ?あのままいけば肉の檻は壊れ、【君】は愛しい彼にやっと出会う事ができたのに。仕方がないから、肉の檻を【君】に合わせて変質することにしたよ。【君】は君に同情しているのかね?愛着かな?どちらにせよ心優しい事だ。長年待った番が心優しい性格をしているとは、彼も喜ぶ事だろう。私の事も許してもらえる」

豪商が何か不思議な呪詛を唱えると、床の一部が隆起して人形になったと。人形の表面の質感が変わり、まるで人間のようになって髪や歯が生える。人形が変化して現れたのは、豪商の妻だった。

「何か欲しい物があるのならば、これに命令しろ。あと数日ばかりの命だ、悔いがないように過ごすが良い」

立ち去る豪商は最後にこう言った。

「恨むならば約定を違えた親を恨め」

主は日青を残して去っていった。

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