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日記やネタ倉庫 思い付いた物を書くので、続かない可能性大。
2013-08-25(日)
とある高竜の話8

「おじ様おじ様、あっちに行って下さいませ」
「へいへい」
「おじ様おじ様、お花が取れません。高い高いして下さいませ」
「へいへい、ほーら」
「キャピー!」

老いて死を待つばかりの竜達の里。静寂と穏やかな日常が過ぎるのみの里に、今は賑やかな声が響いていた。

そこは高竜の別宅。老いたと言えども、並外れた力を持つ竜がひしめく里の奥まった場所にある広大な屋敷。そこの花が咲き誇る花樹園に二つの人影があった。


とある花の木の根本に立っているのは、まるで中国の衛士のような赤色の鎧装束に身を包んだ男性。見た目はただの人間のようだが、その身長はニメートルを越えている。その肉体も逞しく、人並外れた立派な体躯を持っているから、巨人や鬼に間違われそうだ。

「今年は豊作ですキャピ!」

その男性の肩に乗っているのは、一人の人物。性別はよく分からない。抜けるような白い肌に螺旋状に生える鱗、まるで魚の鰭ような耳に、長く優雅な尻尾を持つ人物。幾重も布を重ね合わせた絢爛豪華な衣装に身を包み、その長い髪を美しく結い上げている人物は、嬉しそうに呟きながら目の前の枝から花を収穫していた。

ミクロフィフィは、その瞳をオレンジ色にキラキラと輝かせながら、美しい尾を楽しげに左右に振り、鼻歌を歌っている。

「そんなに花をとってどうすんだい?嬢ちゃん」
「お花は色んな事に使えます。砂糖づけにしたり、ジャムにしたり、匂袋にしたりするんです。毎年皆でやってたんです。今回はジャムにします」
「ほぉー」

ミクロフィフィの言葉に感心したように頷くウボディアス。その頭上で、気合いが入ったように拳を突き上げるミクロフィフィ。成人男性と同じ体格である彼女だが、そんな幼い動作をしても、大きなウボディアスに肩車してもらっているせいか違和感はない。

「今年は、おじ様がいるから、沢山とらないといけません。おじ様、次はあちらに行って下さいませ」
「そりゃ、すまんねぇ。この体だから食うもんも多くてな。たんまり作っておくれな嬢ちゃん」
「ピィ!頑張ります!鍋一杯作ります」

あらかた花を取りつくしたミクロフィフィは、ウボディアスの肩をペシペシ叩いて、別の木を指差す。それに頷いたウボディアスは、ノシノシとそのままミクロフィフィが指差した木に向かい、そこでミクロフィフィがまたムッシムッシと花を毟っていった。

ミクロフィフィの笑い声が時々響く庭は、長閑で穏やかな雰囲気が満ちていた。

「フィフィちゅわぁん」

そんな二人を見て感涙する竜が三匹。

「良かった、良かったぁ。フィフィちゃんがあんなに笑ってぇ。」
「ほんになぁ良かったですなぁ、姫様」
「儂、こんなに泣くの何年ぶりじゃろうか」

人化しながら木立に隠れて、ダパーと涙を流しながら泣く三匹の視線の先には二人がいた。

生き残った竜の姫と、数百年ぶりに復活した高竜の衛士。その二人が長閑に笑い合う光景は、彼等にとって感動の光景だった。

救出された後、ミクロフィフィは自主的に笑わないようになっていた。

感情を表す瞳はずっと濁った灰色のまま。以前は大好きだったお菓子や綺麗な人形に興味を持たず、感情の降り幅が極端に小さくなっていた。叔母であるシルフォンには多少心を開いていたが、それでもミクロフィフィの瞳には絶望の色しかなかった。理由のない恐怖を感じ、いつもビクビクと怯えていた。

また、心と体の齟齬にもミクロフィフィは苦しんだ。幼い心と成人男性の体は、ミクロフィフィに負担になっていた。

それなのに、ミクロフィフィは周りの竜達に笑いかける。灰色の瞳のまま、以前のように明るく振る舞おうとする。その様子は痛々しい限りだった。シルフォンはミクロフィフィとずっと居たかったが、ミクロフィフィの事を秘密にする為に奔走していた為、昼も夜も付きっきりには出来なかった。

そんな中、衛士になったウボディアスはミクロフィフィに寄り添った。寂しそうにしていたら馬鹿話をして、一人になりたいときは一人にさせ、恐ろしくて怯える夜はその体を背負って不器用な子守唄を歌った。幼い頃から苦労していたウボディアスは、他人の感情の機微に敏感だ。だから、「辛くない寂しくない」と嘘をつくミクロフィフィを見破った。

ミクロフィフィは、自分のような体で背負われる事に抵抗したりしたが、ウボディアスは「子供はそんな事を気にするな」と言って彼女をあやした。ウボディアスの背を感じながら、ミクロフィフィは眠った。

その背はミクロフィフィの父にそっくりだった。

それから、ミクロフィフィは何処に行くにもウボディアスと一緒じゃないと嫌がるようになった。ウボディアスは快くそれに応じたが、だからといって、ミクロフィフィが自分に依存したままにしなかった。

屋敷の外に出して様々な事を体験させ、老竜や信用できる人間の子供と交流させたりした。その人間の少女は聡い子で、最初はミクロフィフィの言動や外見に驚いたが、直ぐに状況を把握し、まるで姉のようにミクロフィフィと遊んだ。ミクロフィフィも少女を姉様と呼んでなつき、折紙やお喋り等を楽しんだ。

そして、様々な人々に触れ合ったミクロフィフィは、再び昔のように明るい笑顔を浮かべるようになったのだった。

「良かった、良かったねぇフィフィちゃん」

実はシルフォンが泣くのは、もう一つ理由がある。老竜達には分からないが、高竜のみ分かる事。シルフォンの形の良い鼻先をくすぐる甘い匂い。

その出所は、ウボディアスと笑い合うミクロフィフィ。
そう、ミクロフィフィは恋をしていた。

生き残った高竜の淡い恋が、実るかどうか分からない。だが、心に深い傷を負ったミクロフィフィが、恋をした事自体が大きな進歩なのだ。もし、これが失恋に終わろうとも、それはミクロフィフィの心の成長になるだろう。ウボディアスならば、どんな結果になろうともミクロフィフィを傷付けない。

そう信用しているからこそ、シルフォンは大切なミクロフィフィの衛士にウボディアスを選んだのだ。

シルフォンは微笑みながら姪を見る。

けど、シルフォンには予見めいた確信があった。きっといつの日か、この花園は沢山の子竜達が駆け回るようになるだろう。そして、その中央には、小さな竜を抱えたミクロフィフィとウボディアスが居るだろう。

今は見守ろう二人の日々を。
そして、自分は間違いなく邪魔をするであろう、老竜達への仕置きを頑張ろう。

一先ず、「近すぎじゃないか?あの若造」「そうじゃそうじゃ近すぎじゃ。調子に乗りよって」と言いながら不穏な会話をしている、自分の横の爺達をブッ飛ばす。

「とある高竜の話8」へのコメント

By ゆき
2013-08-26 00:44
フィフィちゃんが肩車されてる…可愛すぎてヤバい!
今後の展開・恋模様めっちゃ期待してます!!


CA007
[編集]
By 染井吉野
2013-08-26 13:33
更新待ってました!

おじ様の肩車の上ではしゃぐフィフィちゃんが可愛すぎて…!
幸せな未来をお待ちしています
P04B
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By ニニ
2013-08-29 01:04
更新ありがとうございます!
フィフィちゃんが笑えてて何よりです。過去の一件をその目で見て体験して、それでも恋をしたって、作中にも進歩や成長とありますが、すごいことですよね。
シルフォンさんが確信した、幸せな二人が是非見たいです。
SH001
[編集]
By mi
2013-09-13 07:15
フィフィちゃん、幸せになってほしいなぁ。
pc
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