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日記やネタ倉庫 思い付いた物を書くので、続かない可能性大。
2013-07-26(金)
とある高竜の話7

「おじ様どこぉ?」
「おじ様って、誰なのフィフィちゃん?」
「お父様みたいなおっきな人」
「ああ。フィフィちゃん、アイツとは会えないんだ」
「え?」
「見えないが、アイツは竜人と呼ばれる竜の末裔なんだ。雄である以上、フィフィちゃんが危ない」
「ピ」
「え?」
「ピュキャアアン!」
「フィ、フィフィちゃん、泣かないで!」
「ピュキャアアン!ピュキャアアン!ピュキャアアン!おじ様ぁぁピュキャアアン!」

■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

「ぶえーくしゅっ」

とある石部屋に大きなクシャミが響く。そこには、巨体を窮屈そうに縮めて、胡座をかいて座るウボディアスが居た。

その石造りの室内には巨大な浴槽があった。まるでプールのような大きさの浴槽は白っぽい石をそのままくり貫いたような、大きくて武骨な物だ。巨体を持つウボディアスが、立っていても体が隠れてしまう程の深さがある。

その中央に彼はいる。まるで肉の鎧を着たような見事な肉体を悠々と晒した彼は全裸だ。筋肉の溝の中をチロチロと水が流れていた。獣のように頭を振って水気を飛ばした彼は、頭上のもの達に話し掛ける。

「なあ、もう良いだろ?爺」
「まだまだじゃ」
「そうじゃ、まだまだじゃ!」
「ぶげぼらが!」

再び、ウボディアスの頭上から盛大に水が落とされる。まるで滝のように盛大に流される水は、行水に使うには勿体ないような澄んだ上質な物である。それは、彼の頭上に輝く魔法陣から止めどなく流れてウボディアスの逞しい体を直撃していた。

魔法陣を出しているのは二体の竜達。浴槽を挟むように床に座りながらウボディアスを見つめる竜は、どちらも老いており鱗が所々が剥げており、筋肉に張りも躍動感もなく肉が垂れている。

そんな竜達の瞳は何故か殺気じみた色を宿しながら、ウボディアスを睨み、八つ当たりのように水を浴びせかけている。

「おやまあ、男前が悲惨な事になってるねぇ」
「婆さん!ぶほっ!」
「だぁれが婆さんじゃ!」
「我等の姫(ひい)様を婆さんじゃとぉ!」

シルフォンの声にウボディアスが嬉しそうに顔を上げた瞬間、先程とは比べ物にならない水量の水が落ちて彼を潰した。カエルのように床の上にベシャリと俯せに横たわるウボディアス。老竜達の尻尾が彼の頭をベチベチと叩き、倒れる彼に無慈悲な追撃が振るわれる。

「そもそもじゃ!お主みたいなキッタナイ奴が、小姫(ちいひめ)を抱き抱えるなんぞ、言語道断!」
「身分を考えい!この!この!」
「羨ましいぞこの!」
「わしらも抱っこしたいぞ!」

私情が入りまくりな老竜達の無慈悲な追撃は止むことなく、それはいい歳したオッサンがシクシクと泣くまで終わらなかった。ちなみに、部屋の入口に居たシルフォンは、それを見て爆笑していた。

■■■■■■■■■■■■■■

あの時、地下室でウボディアスに話し掛けたのはシルフォンだった。彼女はまるで戦の時のように、鎧と薙刀を身に付けて真剣な顔をしていた。

それはミクロフィフィが雄に襲われている事を案じての完全武装だった。地下室でミクロフィフィを庇うように抱き抱えているウボディアスを見て、彼女は薙刀を振り回してウボディアスからミクロフィフィを奪い取った。

号泣しながらミクロフィフィを抱き締めるシルフォンの後ろで、彼は後から来た翁(人型)によって捕らえられて連れ去られた。地下室から出ると、そこは翁竜達や高竜守衛隊によって制圧されており、部下達は見事に気絶させられて地面に転がされていた。

「姫様、コヤツどうする?」
「連れてきな」
「うおぉぉぉ!」

それを横目に見ていると、突然体が浮き上がった。彼を取り押さえていた翁竜が竜化して空に舞い上がったのだ。鱗に覆われた巨躯が伸縮し、空を滑空する。そして、彼は老竜の里に連れ去られたのだった。

盛大に洗われて流されたウボディアスは、爺のブレスで乾かされると服を着させられた。それは鮮やかな赤金色の前会わせの衣服であり、帯を結ぶ着物のようなデザインで、各所に精緻な刺繍が刻まれていた。靴はなく裸足である。竜は室内では靴を履かないのだ。

そして彼が放り込まれたのはシルフォンの部屋だった。

女性の部屋であるのだが、中には武具や防具が飾られ、散乱した室内には戦利品であろう、獣の頭蓋骨やら毛皮やらが置かれている。宝石や花などもあるにはあるのだが、それは何かの材料になると思われる華やかさのない野性味溢れる物ばかりだ。

その部屋の真ん中には敷物が敷かれており、膝掛けやら座卓等が置かれていた。基本的に竜は、机と椅子を使う竜人とは違い床文化である。その上に座り胡座をかいていたシルフォンは、自分の向かいに座るようにウボディアスに指示した。

「何だい?随分と不機嫌だねぇ?」
「そりゃ、拐われたら不機嫌になる」
「そりゃそうだ!すまなかったなクソガキ」

カラカラと笑うシルフォンは、不機嫌なウボディアスに謝りながら煙管を吸う。

「で?一体なんなんだ?」
「ん、以前からアンタの体質に興味があったのは知ってるね?」
「おう」

ウボディアスは異端の龍だ。人間のような耳に鱗が少ない肌、牙も尻尾もない、もし額の鱗がなかったら人族に間違われそうな外見。このような竜人は今まで誰もいなく、幼い頃は様々な人々が彼を調べた。中には、竜の血が薄くなったことにより産まれた竜人の成りそこないの奇形だと、彼を罵る者も居た。両親は彼を守ったが、彼に対する偏見は強かった。そんな中、シルフォンとの出会いで彼の戦闘能力の高さが証明され、彼は外見に現れない竜の戦闘能力を高く受け継いでいるとして龍となった。当時からシルフォンは彼の事に興味を持っていた。

「アンタはバラバラだ。竜の形質の受け継ぎ方が独特で、他の竜人が持ってる物を持ってなかったり、持って無いものを持っていたりする」
「らしいな……」

他の竜人とは違う事に悩んだ事はある。だがしかし、それは竜人の弱点は彼に通じないという事に繋がり、他の竜人には出来ない戦い方が出来るという事だった。だから、それは彼の能力であり誇りであった。

まあ、巨体のせいで童貞なのは悲しいが……。(彼の名誉の為に言うが、女性経験が無いわけではなく、女性と夜を共にした事や肌を合わせた事もある。単純に入らないだけだ)

「アンタの私に対する対応も違和感があったがねぇ、まさかねぇ」
「何を言ってんだ婆さん?」
「アンタ、これどう思う?」

手渡されたのは可愛いらしいレースのハンカチだ。それを摘まんで見てみるウボディアスだが、シルフォンが何をしたいのか分からずに首を傾げる。

「何も感じないかい?」
「ん?強いて言うなら、良い匂いがするな」

クンクンとハンカチの匂いを嗅ぐウボディアス。無臭に近いが、甘いような柔らかいような不思議な匂いがする。

「それがオカシイんだよ。ほれ」

ウボディアスからハンカチを取り上げるシルフォンは、おもむろに窓を開いてハンカチを投げ捨てる。ヒラヒラと舞ったハンカチが地面に触れる瞬間。

シュバッ

「ウオオオ!小姫様のハンカチィィィ」
「ワシの物じゃぁぁぁぁ!」
「去れ老いぼれ!年甲斐なく馬鹿するな!」
「同い年じゃ!ボケたか老いぼれ」
「それより手を離せ」
「嫌じゃ!」

人化した竜達が群がる。各人、老将軍や老宰相のような威厳のある者達がハンカチを奪い合う様子は不様の一言に尽きる。だが、彼等は目を血走らせて火を吹き、本気で取り合っている。

「枯れた爺でもあれだよ。竜人でも若い個体ならば、ハンカチを欲しがるだろう。けど、アンタはそうならなかった。どうやらアンタは、未婚の高竜へ発情する竜の本能を弱く受け継いでいるようだ」
「だからあの時……」

あの地下室での一幕を思いだし、ウボディアスは頷く。

「そこでだウボディアス。アンタに頼みがある。私の姪であるミクロフィフィちゃんの護衛になってくれ」

そう言って、シルフォンはウボディアスに頭を下げた。
「とある高竜の話7」へのコメント

By ダポ
2013-07-27 01:03
フィフィちゃん可愛いすぎます。
おじ様を求めて泣く 「ピュキャアアン!」にノックアウトされました(*´Д`*)

フィフィちゃんが幸せになれますようにぃ!


竜のお爺様方が楽しいですww
pc
[編集]
By mi
2013-07-28 07:34
フィフィちゃん、かわいい〜。いや〜、萌え死ぬ〜!
pc
[編集]
By 染井吉野
2013-07-30 00:14
爺様達ナイスキャラですね
小姫様呼びになんだかほっこり

フィフィちゃんには幸せになっていただきたいっ!
P04B
[編集]
By ニニ
2013-07-30 00:54
フィフィちゃん可愛いですねぇ。
大きな目をかっ開いて大粒の涙をぼろっぼろ零していてほしいです←細かい

爺様たちのキャラ好きですが、これが若者だったらを考えるとほんと怖いですね。
ウボディアスが思いの外ひどいめに遇ってた(笑)
「お父様みたいなおっきな人」というのはポイント高いですね。頑張れおじさん!(笑)
SH001
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