日記やネタ倉庫
思い付いた物を書くので、続かない可能性大。
2013-07-19(金)
とある高竜の話6
当時、高竜を失った竜達は動揺した。
当たり前だろう、人間で言えば女性がいなくなってしまったのだ。そして、竜達の視線は唯一生き残ったシルフォンに集中した。全ての竜は彼女が雌を産み、失われた高竜が復活する事を望んでいた。
当時の彼女は婚姻を結んだばかりだった。事件当日は産んだ卵を姉に任せて、夫と冒険に行っており、だからこそ助かった。
もしこの時、竜達が冷静ならば竜の衰退は緩まっただろう。だがしかし、雌の全滅と種の存亡という問題を前にして、竜達は一種の狂乱の中に居た。彼等は愚かな事にシルフォンを奪い合ったのだ。
それには理由があり、シルフォンの夫は学者タイプの竜であり戦士ではなかったのだ。
当時の竜は戦士であることを尊んでおり、夫の資格は優秀な戦士に与えられた。だが、彼は武勇によって夫の資格を得た訳ではなく、シルフォンの一目惚れにより夫婦になったのであった。
結婚当初はさほど問題なく、竜達は腕白娘には丁度良いと笑っていた。だが、彼女しか高竜がいなくなった今は別だった。強くもない竜が、最後の高竜を妻にすることに異を唱える者達が出た。早い話、嫉妬である。アイツよりも自分が相応しいと、何匹もの竜が夫に決闘を挑んだ。
最初は互いを想い合っている夫婦を守ろうとする者と、強い竜を夫にしろという者との戦いになった。だが、それはシルフォンの夫が殺されても終わらなかった。夫が死ぬや否や、味方と思っていた者もシルフォンの所有権を主張し始め、シルフォンを守ろうとした兄や父を殺した。
それは次第に竜全ての争いに発展した。竜はシルフォンを求めて殺しあった。空からは常に争う竜の雄叫びが響き、血の雨が降った。
その竜の醜い争いを見ていたシルフォンは、家族の墓の前で自分の腹を裂いた。自分が子を孕む事による利益よりも、自分が子を孕むことによる不利益の方が大きいと判断したからだった。
瀕死の重症だったが、治療によりなんとか一命はとりとめた。だが、彼女の出産能力は失われた。
それにより、竜達はやっと目が覚めた。自らの行いを深く恥じた彼等は、ある者は罪悪感によって自ら命を絶ち、ある者は何処ともなく姿を消した。そして、生き残った者達は別種の雌と交配することになる。
もし、彼女が腹を捨ててなければ恐らく、別種の雌と交配することなく竜は死に絶えていただろう。それを理解しているからこそ、竜達は彼女を責めなかった。家族も体の一部も失った彼女に、竜は罪滅ぼしのように仕え自由を与えた。
腹を失った彼女は、不思議な事に老化が止まり力が増した。それは出産能力を失った代償か、産めない竜は皮肉なことに国の竜人が誰しもが憧れる、強く美しい永遠の美女を作り出した。シルフォンは王宮の高竜宮に住んでいるとされているが、行事以外は世界中を飛び回る生活を営んでいた。かっての竜にたいする恨みは既になく、竜の血をひく竜人には愛しい感情しかない。
冒険や探検に飛び回り、時には龍達の指導をして楽しく過ごしていた。ウボディアスとはその時に知り合った。もう、竜は終わった種族、今は竜人の発展に貢献していこうと思っていた。
だからこそ、彼女は後悔している。
高竜が高竜でたる所以。それは出産だけではない。彼女達は出産した時から、とある体臭を出し始める。それはフェロモンのような魔力が交わる特殊な物で、竜の子供達はそれに誘われるように卵の中で目覚めて孵るのだ。その体臭に包まれなければ竜は竜ではない。無理矢理卵から引きずり出した竜は蜥蜴に近い物で、理性も知性もない獣だ。
そう、【高竜が孕み子育てする】ことにより竜は産まれるのだ。だが、自分は孕む事は出来ない。すなわち、あの大量にある卵を孵す事が出来るのは、ミクロフィフィのみなのだ。
ミクロフィフィを孕めば全ての問題は解消する。その時に、残った数十の卵が孵り高竜達は復活する。それにより、竜という種族の復活は叶うだろう。つまりミクロフィフィを孕ませた者は、竜復活の立役者になる事が出来るという事を意味する。
そうなった時、手に入る地位や名声は比べ物にならない。人に近くなり力を失うと同時に欲望が強くなった竜人にとって、それは魅力的な物だ。
もし、ミクロフィフィの事が竜人達にバレれば、またあの過ちを繰り返すだろう。シルフォンは竜人を愛してはいるが、だからといって彼等を理想的な人格の持ち主だと判断するほど、小娘でもなかった。
沢山の雄がミクロフィフィを孕ませたいと襲い掛かり、邪魔な者を排除し国は荒れるだろう。それは太古からの竜の本能でもある。どうにもできない。
もし、ミクロフィフィ達が生きていると分かっていたら腹を抉らなかった。どんな辛い事があろうとも、生きて生きて生き抜いて子供達を自らの手で孵したかった。頑張ったミクロフィフィに、「よく頑張った、あとは私に任せな」と言って労いたかった。
「わ、わたくし、叔母様、わたくし」
健気に笑顔を作ろうとするミクロフィフィ。「任せてください、産みます」とは言えなかった。変形した体、暴行を受ける母達の記憶、咬竜の事を恨みながら過ごした日々、それが全てミクロフィフィの上にのし掛かる。
自分の未来を予想し、体をガタガタと震わせるミクロフィフィに、シルフォンは微笑みながら抱き締める。
「大丈夫だよ、フィフィちゃん。フィフィちゃんの事は秘密にしてある。此処は生き残った竜達の里。枯れはてて種の残り滓すらない老竜しかいない場所だ。フィフィちゃんを傷付ける者はいない」
そう言って、深い灰色に染まったミクロフィフィの瞳を見つめる。本当はこんな事言いたくなかった。ミクロフィフィには苦労なく過ごして欲しかった。だがしかし、ミクロフィフィは高竜だ。もし黙っていたとして、自分の体の事はすぐにバレてしまっただろう。そうなった時が怖い。
もし、彼女が思い詰めて暴走し、その結果望まぬ事態になろうものなら、自分は相手を引き裂いてしまうだろう。泣くミクロフィフィを憐れに思う。我等高竜にとって番を得て子を孕む事は、何よりも嬉しい事なのだ。皆に祝福され、未来を夢想し夫と語り合う幸せな時なのだ。
こんな、こんな顔をする物ではない。
「良いかい、ミクロフィフィ。無理矢理孕もうとか考えたらダメだよ。それは絶対やっちゃダメな事だ。私達は新しく産まれる竜に祝福を与える者。不幸な子供をこさえる事は、あってはならない」
「でも叔母様、妹達が……」
早く卵から出してあげたいと泣くミクロフィフィの頭を撫で、言葉を慎重に選ぶシルフォン。
「フィフィちゃん。あんたがもし卵の中に居て、姉が自分の為に望まない妊娠をしたら嬉しいかい?」
「ううん」
ミクロフィフィは首を振る。
「ならば妹達もそうさ、皆がフィフィちゃんの頑張りを見てる。少しだけ孵る時間が遅れても気にしないさ。大丈夫、私達の一生は長い。その内、番になりたいと思える雄と出会えるさ。その時に卵を孵せば良い。今はユックリ休みなさい」
孕まなくても良いとは言わない。孕むことは高竜の生きる目的だから。だが、だからといって、望まぬ妊娠をしなければならない道理はない。普通の高竜のように、愛す者と幸せな家庭を築いて欲しいとシルフォンは思う。
あの人との子供。当然ながら早く会いたい。だが、ミクロフィフィにはこれ以上不幸になって欲しくない。
心の中で卵の中の娘に謝る。
だから、もう少しだけ待っててくれるよな?
我が娘よ。
「とある高竜の話6」へのコメント
By ユエ
2013-07-20 10:01
うぅ切ない展開( ノД`)…
はやく幸せになってほしいなぁ( ´△`)
pc
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By ニニ
2013-07-23 01:15
4話のラストに出てきたのは叔母さまだったんですね。
シルフォンの過去は私の想像の山を超えていて、卵がかえるのにそんな問題があるなんて…と脱帽しっぱなしです。
うわぁん、おじちゃん頑張ってフィフィ守ってあげて!
SH001
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