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即興小説掲示板
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It's all right.
By ミノル
お題みっつ:猿、ヒト、電車 で書かせていただきました。 次のお題みっつ:花、月、剣 でお願いします。
2008-02-13 02:41:03
「馬鹿なのよ。まだ、猿なの。進化過程。ヒトじゃあない、おサルさん」

鼻息も荒く、彼女はこう言い放った。

20分も待たされたのは僕の方だというのに、彼女はなぜか怒り心頭に発した様子で現れた。
理由を問えば、曰く、電車内で、それも優先席にどっかりと腰掛けて、堂々と携帯電話で話していた若者を見た。…らしい。

「あれはわかってない。世の中をわかってない。あんなの猿だよ、猿」

先程から熱を込めて、彼女はそう繰り返す。
だけど、

「だけど、それはあまりにも猿に失礼だ」

僕が言えば、彼女は目つきも鋭く僕を見上げてきた。
そんなに睨まなくてもいいのに。

「何でよ」

何でって、そりゃあ。

「その発言は、完全に猿を人の下に見ている」

人差し指を突き付ける。
彼女は不機嫌そうに眉を寄せた。

「…それは、そうだけど」
「というか、君は待ち合わせに20分も遅れておきながら、ごめんの一言もない」
「…それも、そうだけど」

彼女は唇を尖らせる。
じゃなくて、ほら、「ごめん」でしょ。
そう僕が思っても伝わらない。まったく、君という人は。

「…でも」

彼女が顔をあげる。

「人を待たせるのはともかく、優先席で電話するのは、直に命にも関わるんだよ」

…まったく、君という人は。

「だけど、待たされた僕は寂しくて死ぬかもしれなかった」
「ウサギじゃあるまいし」
「そう。僕はウサギじゃない」

怪訝そうな顔の彼女。

「君の見た若者も、猿じゃない」
「……」
「もちろん君も、ウサギでも猿でもない」

彼女は黙り込む。
つまり僕の言いたいことは。

「誰しも間違いは犯し得る。でも、言葉を持つヒトだからこそ、間違いを犯した時にできることもある」

でしょ?

「……遅れてごめん」

暫くの間を置いて、彼女がぽつりと呟いた。

よくできました。

「いいよ」

僕は笑って彼女の髪を撫でる。

「…それにしても、いつもながら、回りくどい」
「だってこうでもしないと、君は絶対に謝らない」
「…それは、そうだけど」

ぽつぽつと不服を零す彼女の髪を、ゆっくりともう一度撫でてやる。
心地いい感触。

「行こうか」
「…うん」

彼女の手を取る。

そう。
詭弁だろうと、何だろうと。

僕たちは、これでいい。


W52SH
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