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「馬鹿なのよ。まだ、猿なの。進化過程。ヒトじゃあない、おサルさん」 鼻息も荒く、彼女はこう言い放った。 20分も待たされたのは僕の方だというのに、彼女はなぜか怒り心頭に発した様子で現れた。 理由を問えば、曰く、電車内で、それも優先席にどっかりと腰掛けて、堂々と携帯電話で話していた若者を見た。…らしい。 「あれはわかってない。世の中をわかってない。あんなの猿だよ、猿」 先程から熱を込めて、彼女はそう繰り返す。 だけど、 「だけど、それはあまりにも猿に失礼だ」 僕が言えば、彼女は目つきも鋭く僕を見上げてきた。 そんなに睨まなくてもいいのに。 「何でよ」 何でって、そりゃあ。 「その発言は、完全に猿を人の下に見ている」 人差し指を突き付ける。 彼女は不機嫌そうに眉を寄せた。 「…それは、そうだけど」 「というか、君は待ち合わせに20分も遅れておきながら、ごめんの一言もない」 「…それも、そうだけど」 彼女は唇を尖らせる。 じゃなくて、ほら、「ごめん」でしょ。 そう僕が思っても伝わらない。まったく、君という人は。 「…でも」 彼女が顔をあげる。 「人を待たせるのはともかく、優先席で電話するのは、直に命にも関わるんだよ」 …まったく、君という人は。 「だけど、待たされた僕は寂しくて死ぬかもしれなかった」 「ウサギじゃあるまいし」 「そう。僕はウサギじゃない」 怪訝そうな顔の彼女。 「君の見た若者も、猿じゃない」 「……」 「もちろん君も、ウサギでも猿でもない」 彼女は黙り込む。 つまり僕の言いたいことは。 「誰しも間違いは犯し得る。でも、言葉を持つヒトだからこそ、間違いを犯した時にできることもある」 でしょ? 「……遅れてごめん」 暫くの間を置いて、彼女がぽつりと呟いた。 よくできました。 「いいよ」 僕は笑って彼女の髪を撫でる。 「…それにしても、いつもながら、回りくどい」 「だってこうでもしないと、君は絶対に謝らない」 「…それは、そうだけど」 ぽつぽつと不服を零す彼女の髪を、ゆっくりともう一度撫でてやる。 心地いい感触。 「行こうか」 「…うん」 彼女の手を取る。 そう。 詭弁だろうと、何だろうと。 僕たちは、これでいい。
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