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はにゃーん的独用小説板
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悪魔四天王 リメイク 番外編
By 水無月無限
2010-04-02 21:45:34
本編と思いっきりズレるので番外編は別にうpします。
ややこしくなりますが、ご理解のほどをよろしくお願いいたします。
pc
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By 水無月無限
2010-04-30 19:28:32
番外編-第2章:千円札のミステリー 〜Mission Possible〜 U



アクアリウスから「お使い」という名の労役を課せられたアミューは、大好物のたこ焼きで釣られた自分を戒めながらも、その足を目的地へ運ばせていく。
(アクアリウスめ、相変わらず策士だー…。 これ以上失敗しないように気を付けないとだなー……)
混沌ローム荘を出てからおよそ3分、ブルーレイク公園の前を通りがかったアミューの耳は『それ』を聞き逃さなかった。
「毎月『8』のつく日はたこ焼きの日、8個入りでなんと80円だよー」
「たっ、たこ焼きが8個入り80円ー!!?」
ブルーレイク公園を囲う塀を乗り越えて、猛ダッシュでたこ焼き屋の屋台にかけ込むアミュー。
それに気付いた店主は、目を輝かせているアミューに尋ねた。
「お嬢ちゃん、たこ焼き買っていくかい?」
そう言っている間にも、華麗な手さばきでたこ焼きをくるくる回していく。
しかし、アミューは心の中で静かに葛藤していた。
(は…80円ぐらいなら使ってもバレないかも――っ!!)
(…し、しかし、レシートを請求されたりすれば一巻の終わり―――っ!!)
「お、お嬢ちゃん?」
屋台の前で真剣な表情を浮かべてうんうん唸るアミューに声をかける店主だが、アミューには聞こえていないようだ。
(し…しかし……、しかしーっ!!!)
「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」
アミューは5分ほど内なる自分と戦った後、しょんぼりと肩を落とした。
そして、少しばかり涙目になりながら
「……また来るぞ! おっちゃあああぁぁん!!」
ブルーレイク公園を走り去って行った。


ブルーレイク公園を出発してから5分、マゼンタ商店街に到着したアミューは、真っ先に「精肉店」と書かれた店に向かった。
「おい、おっさん! 豚肉を100gほどくれー!!」
「200円だよー」
すっかり顔なじみのアミューの顔をみるなり、店員の男性はにこやかに応対する。
最初はそのハンマーに驚きもしたが、「小物入れだ」ということで納得してもらっているようだ。
アミューはそのハンマー―彼女は「クロちゃん」と呼んでいる―の小物入れを探る。
「200円だな、ちょっと待てー!」
探しているうちにアミューの顔は段々暗くなり、
「――って、金がないぞーっ!?」
最終的には真っ青になっていた。
「おかしいぞー!! さっきまでクロちゃんの小物入れにあったのにー!!」
「かねがねーっ!! どこいったー!!!」
その雄たけびと共に、アミューはハンマーを振り上げ―
「かねどこおおおおおおお!!」
地面に叩きつけた。
そこには大きな穴が出来ており、かすかに土煙を漂わせていた。
「お嬢ちゃん、こんな所でマズいよ!!」
何がマズいのかは分からないが、店員はアミューを腕ずくで止めることに成功した。
アミューは「どうしようどうしよう」と、念仏のように繰り返していたという。
pc
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By 水無月無限
2010-05-01 02:42:33
番外編-3章:千円札のミステリー 〜Mission Possible〜 V



マゼンタ商店街のはずれにある、ブルーレイク公園。
その公園のベンチに座り、がっくりと肩を落とす少女がいた。
「どうした事か…このままではアクアリウスに何を言われるかー!!」
そこを通りがかった少年はその少女に叫びに気付き、声をかけてみることにした。
「お前は……たしかアミュー? 何してんだこんな所で」
声をかけられたアミューが顔をあげると、かつて「混沌戦士カオスファイター」について語らいあった友―水無月無限がいた。
「おおーっ! お前はーっ!! いい所に来た、聞いてくれーっ!!」
アミューは無限の腰にしがみつくと、今にも泣きそうな声でそう言った。
「お使いで預かった千円をなくしてしまったのだーっ!! アクアリウスにバレたらボコシバキにされるのだーっ!!」
事の顛末を簡単に伝えると、無限は軽く頷いた。
「なるほど、よく分かった」
「……じゃ、また」
―と同時に、腰にしがみついたままのアミューを引きずりながらその場を立ち去ろうとした。
「ちょっと待てーっ!! そこまで聞いておいて冷たすぎやしないかーっ!!!」
懇願するアミューを見て、無限はため息をついた。
「…冗談だ」
「冗談に聞こえないぞー!!」


「俺に頼らなくてもお前には仲間がいるだろ、相談してみたらどうだ?」
公園のベンチに座り、アミューにクレープを奢ることになった無限が尋ねる。
アミューは相変わらず鼻っ柱にクリームを付けながら、さも真剣そうな表情で答えた。
「それが出来ていれば苦労はないー!!」
「仲間とはいえアテにできない連中だー、セーニャはバカすぎて使えないしー!!」
無限はアミューの話を黙って聞いていたが、大納言アイスクレープを食べるのに余念がなかった。
「特にヤバいのはセルフィアだー! アイツは人の失敗を何より楽しみにしているヒドい女だー!!」
「いつか私の手でボコシバキにしてやるのだー!!!」
勢いよく右手を天に突き上げたが、それの手首は何者かによって掴まれた。
アミューが冷や汗を垂らしながら後ろを振り返ってみると、
「あらぁ、ボコシバキだなんて…。 楽しみねぇ?」
「へぇー、ボコシバキだってねー。 楽しみねー?」
そこには『悪魔の笑み』を浮かべたセルフィアとセーニャの二人が立っていた。
「む、無限!! 助けてくれー!!」
「無限…?」
アミューが無限の名前を呼ぶと、セルフィアは何かを思い出したように表情を一転させた。
「あ!! アンタ、ファミレスの!!」
「やっぱり貴様だったか……」
セルフィアはアクアリウスと共にファミリーレストランでアルバイトをしている時、水無月家とスファリエル親子が来てしまった事を思い出す。
「司令塔を落とす」と自信満々のセルフィアだったが、ノアとスファリエルの父には敵わず仕舞いに終わってしまうのであった。
「ひとつ教えなさい、アンタとスファリエルの親父さんに私の攻撃が効かなかったのは何故!?」
かっとなるセルフィアをよそに、無限は宇治金時クレープを食べながら答えた。
「簡単な事だ、奴等には平原以外眼中にない」
「あと酒だな」と付け加えられると、セルフィアはがっくりと肩を落とした。
「あたしの最大の武器が仇になるなんてぇ…」
「しかし、親父にも困ったもんだな……」
無限は宇治金時クレープの包み紙を丸めてゴミ箱に投げ入れた。
―と、ほぼ同時であった。
「どーでもいいことで盛り上がってんじゃね―――っ!!!」
アミューは蚊帳の外からはち切れんばかりの大声でツッコミを入れるのだった。
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By 水無月無限
2010-05-01 03:19:40
番外編-第4章:千円札のミステリー 〜Mission Possible〜 W



「…でもまあ丁度いいだろ、ヤツらに協力してもらえば」
アミューの大音量に耳を痛めた無限は、顔をしかめながら言った。
「だからアイツらには頼めないってー!」
「大丈夫だ、俺がオブラートに包んで聞いてやる」
心配するアミューをよそに、無限はセーニャとセルフィアの近くへ向かう。
「探し物をしている。 長方形で平べったくて、価値のあるものなんだが…。 知らないか?」
無限はなるべく「千円札」というキーワードを出さないような聞き方をした。
すると、セーニャはオウム返しのようにその単語を反芻する。
「長方形で、平べったくて、価値のある物……」
それに合わせるようにセルフィアは
「知らないわねぇ…」
と返した。
「……ほう?」
だが、彼女たちの一挙一動を無限が見逃すはずなど、なかった。
「その割には、随分と顔から下は正直なんだな?」
アミューはその言葉を聞き、セーニャとセルフィアの顔から下を見てみた。
すると、腕はがたがた震え、足はそわそわと落ち着きを無くしていた。
「顔から下があからさまにアヤシイぞお前らーっ!!!」
すぐさま、アミューにバレてしまう2人だった。
「分かったわよ、バレてるみたいだし…」
「もうちょっと内緒にしときたかったのにー」
「内緒では済まされ…、え? 内緒?」
アミューが疑問符を浮かべると同時に、セルフィアは『長方形で平べったくて価値のある』ものを取り出した。
「はいっ、コレ! アミューにプレゼント!!」
「こ、これはー!!」
「幻の『混沌戦士カオスファイターDVD 10,5巻』じゃないかー!?」
アミューが手にしているものは、カオスファイターの幻とも言われるDVDの事で、発売とほぼ同時期に製品不良のため回収されてしまった商品なのだ。
とはいえ、製品不良はごく一部の製品だったため、裏のルートでは高額の値段で取引される事もあるという。
「街で偶然見つけてさ、アミュー欲しがってたじゃない」
「二人のおこづかいと、道端に落ちてた割引券で買ったんだよー?」
優しく微笑むセーニャとセルフィアを見つめて、涙をぼろぼろ流すアミュー。
「お…お前ら大好きだちくしょーっ!!!」
「やだ、アミューったら泣いちゃってー」
「泣き虫さんだねー」
そんな微笑ましいシーンも、無限の一言によって全て打ち砕かれた。
「―良い話のようにまとめようとしているが、実は何一つ解決していないんだぞ?」


「結局千円はお前が無くしたんだろ、今日の行動を思い起こしてみろ」
「今日の行動かー?」
「特に目立った事はないんだが…」と言いながら、渋々買い物で辿ったルートを思い描く。
まずはブルーレイク公園。
「たこ焼き80円セールにやられそうになったがー、何とかそれを回避したー!!」
「…それで?」
「その隣でイカ焼き100円セールをやっていたのでー、思わず10本も買ってしまったー!!」
「……答えは?」
アミューは我に返ったような顔になり、
「はぁあ――――っ!! 金は私の腹の中か―――――――っ!!!」
お腹をさすりながら10分間嘆き続けた。
「どどどど、どーしよーっ!!」
いつになく焦りを見せるアミューに、姉御肌を見せるセルフィア。
「本当の事言って、謝るしかないわねー」
「アクアリウスだって鬼じゃないんだから、許してくれるわよ」
アミューの頭を撫でながら優しく語りかけるも、彼女自信は不安でたまらなかった。
「だといいんだがー…」
無限はそんなアミューたちを見ると、
「俺もう帰るわ…。 何だかどっと疲れちまった」
といって、大剣の鞘をガリガリ引きずりながら帰路につくのであった。


―混沌ローム荘203号室。
アミュー、セーニャ、セルフィアの3人は予定していた16時より早めに帰宅した。
そしてアミューは、アクアリウスにすぐさま頭を下げた。
「ごめんなさいなのだー!! 実は……」
アミューは今日1日の事をできるだけ詳細に話した。
アクアリウスは話を聞いている途中で頭が沸騰しそうになったが、何とか持ちこたえた。
そして、彼女はその重い口をやっとの思いで開く。
「なるほど…よく分かったよ……」
その眼は鋭く光り、漆黒の世界に跋扈する『それ』のものになっていた。
それをまじまじと見つめてしまったアミューは思わず「ひっ」と声を上げる。
「どうしたのアミュー? そんなにおびえて…」
「だだだだ、だって、アクアリウス、怒ってるんじゃ……」
「私、怒ってなんか、ないわよ?」
淡々と、かつ笑顔で答えるアクアリウスは、アミューにとって『恐怖』そのものだった。
(怒ってる時のアクアリウスはいつも『怒ってない』って言うんだーっ!!)
心の中で余計な叫びを入れないと、やっていけないと思う程だった。



「出せー!! いくらなんでもこの仕打ちはひどいぞお前らー!!」
「いいじゃない、可愛いわよ」
部屋の真ん中に置かれた巨大な壷から顔だけ出したアミューが叫んだ。
どうやらお使いに失敗したため、アミューはお仕置きを受けるようだ。
「悪く思わないことだ、これもアミューの自業自得」
「さてと、私たちは食事前のおやつにしましょ?」
「わーい! おやつー!!」
アクアリウスは淡々と、セルフィアはさも何もなかったかのように、セーニャはおやつの事で頭がいっぱいになっていた。
「あー、えーとー…。 もしかしてー……」
「アミューの分はないぞ」
「やっぱりかー!?」
聞く前にアクアリウスに即答され、生きる術を見失いそうになるアミュー。
「それではみなさん」
「いただきます」
「いただきまーす!!」
「いただきま〜す」
「うがー!!」
壷に閉じ込められたアミューは、おやつのプリンを視覚的にしか楽しむ事ができなかったという。




「もう、二度とお使いなんてするもんか――――――――――!!!!!」




Fin.
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By 水無月無限
2010-09-23 22:39:20
番外編-第5章:パース研究所、大掃除戦線!



ここは水無月家にほど近い場所にある「パース研究所」。
ロボット工学の権威であり、また、自らの身体もロボットという科学者が住んでいる。
その研究所の居間では、1人の男がテレビに釘付けになっている。
この時間帯のカオスワールドでは、テレビアニメ『混沌戦士カオスファイターR』が再放送されているらしく、男はそれに目を奪われていたようだ。
『出たな、お前が最後の敵か!! なんてクレイジーな野郎だ…!!』
『クックック、その通りだカオスファイター! 貴様を倒し、この世界を破壊し尽くしてくれるわ!!』
カオスファイターと悪のボスらしき男の問答に、テレビを見ていた男―ルーインは思わず言葉を漏らした。
「こ…こいつが悪の大ボス…!! 遂に最後の戦いが始まるのか…」
「この戦いの行方は一体どうなっちまうんだ…!!」
ブラウン管の前で世紀の決戦を夢想していたルーインだが、
「こらルーイン! カオスファイターはいいから大掃除手伝えー!!」
声の主―パースによって強制的に現実へ引き戻された。


「ちぇっ、いいところだったのによ…」
思わず口に出した途端、パースは黙ってルーインにハタキを手渡した。
「…何だこれ」
「ルーインはほこりでもはたいてよ。 あ、その辺は精密機械が多いから壊さないでね」
元来面倒な事をするのが嫌い―何より自分に利益が無い事は特に―なルーインは、すかさず不平不満をぶつける。
「こういう肉体労働を俺に押しつければいいと思ってるのか? もっと頭使えよな、適材適所があるってもんだろ」
パースはそれを聞いてしばらく考え込むと、
「適材適所か、なるほど分かったよ!」
どこから用意したのか、巨大な粘着テープ―転がして埃を取るタイプのもの―を用意した。
そして―。
「それっ!」
「のわぁ!?」
―ズドン! という鈍い音と共に、ルーインの姿が見えなくなった。
「気分はどう? ルーイン」
「よかねーわボケが!!」
粘着テープには中央に穴が空いており、丁度大人一人が入れるほどのスペースがあった。
パースが粘着テープを横倒しにすると、
「うわあああああああ!!」
「やあ」
短い悲鳴と共にルーインがテープ中央の穴から顔を出した。
「おいパース! 俺をどうするつもりだゴラァ!!」
思わず吠えてみるが、頭だけ出した状態では怖くもなんともない。
それを見てパースは彼にこう告げた。
「粘着テープの中に入ってゴロゴロ転がれば、動くのも楽だし掃除も出来て一石二鳥だよね?」


何とかパースを説得し、粘着テープから救出されたルーインだが、掃除はまだ始まったばかりである。
一体どうするんだ、とルーインがパースの方を振りむいた。
「こうするのさ!」
「…だから何だよその物々しいマシンは」
ルーインの目に映ったそれは、ドーム型の頭部とドラム状の胴体から出来たミニロボットであった。
「こんなんで本当に掃除が出来んのかよ?」
「大丈夫だって、こいつは『PST型68式量子ホロニクスAI搭載型汎用自立掃除機』なんだよ?」
「…は?」
空気が漏れるような声が響いた。
何を言っているんだコイツは。
ルーインが頭を抱えると、呆れたようにパースが説明を始めた。
「簡単に言えば、『いらないモノを自分で判別して捨ててくれる掃除機』かな?」
「へぇ、そいつはすげぇな」
「じゃあ早速起動させてみよう」
パースがロボットを起動させると、
「いらないモノを見つけてくるぜェ―――――――――!!」
「喋った!?」
ほぼ音速で廊下へ飛び出していった。


「本当にアレで大丈夫なのか?」
「僕の機械を信用してないね?」
「お前の機械だから信用できねぇんだよ…」
ルーインが言い終わったと同時に、掃除機ロボットの甲高い声が聞こえて来た。
「いらないモノを発見したぜェ―――――――――――!!」
「ほらね?」
「へぇ、なかなかやるじゃねぇか」
ロボットが廊下を爆走する音と共に、聞き覚えのある声が二人の耳に届いた。
「ん? 人の声?」
「…空耳じゃねぇか?」
件のロボットはパース達の研究室前を通っている廊下にさしかかろうとしていた。
空耳だ、と言った声も段々近づいてくる。
その声の主はついに姿を現し、
「のわあああああああああああああああああ!! 助けてくれだからなあああああああああああああああああ!!」
天使『イン・スファリエル』は、そこに居た。
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By 水無月無限
2010-09-24 22:31:44
番外編-第6章:パース研究所、大掃除戦線! U



『PST型68式量子ホロニクスAI搭載型汎用自立掃除機』に捕らわれていたスファリエルを救出し、再び掃除を再開する事になった。
ルーインはパースに言われ、研究所の外にある倉庫の掃除に来ていた。
「いやしかし、倉庫ってのはこんなに散らかり放題だったか…?」
埃を吸わない為のマスクが邪魔なのか、しきりにそれを触りながらぼやく。
ハタキ一本だけじゃあ掃除しきれないな。
ルーインはまず物品の整理から始めることにしたが、腰を屈めた際に倉庫の奥に何かを見つけた。
「ん? 何だありゃ?」
持ち上げかけていた段ボールを下ろし、ゆっくりとそれに近づいていく。
倉庫の中は薄暗いが、普段から暗い炭鉱で鉱石を掘っているルーインにこんなものは見えているのも同然である。
それが仇となった。
「……これって、まさか」
全身に埃を被っており、メイド服を着た少女が壁にもたれかかる様にして座っていたのを、ルーインは直視してしまった。
刹那、野太い悲鳴が響いた。


研究所には住人の生活に合わせた部屋や設備が用意されており、『エンガワ』もその一つであった。
言われた通りにエンガワの掃除をしていたアヒャントは、倉庫の方から響くルーインの悲鳴にすぐ気が付いた。
「! ルーイン…?」
手に持っていた雑巾を放り投げ、アヒャントは倉庫へ走った。
「おいどうしたルーイン、何かあったのか!!」
怯える様子のルーインに尋常ではない空気を感じたアヒャントは、両肩を掴んで尋問する。
一方のルーインは、焦点の合わない目―元よりどこを見ているか分からないが―でアヒャントを見てから
「倉庫! 女の子!! 死体!! メイドの女の子!! 倉庫で!!」
混乱しつつも、何とか自分の見た光景を伝えようとした。
だが、あまりにも混乱し過ぎて、伝えたい内容がとぎれとぎれになってしまい、
「倉庫で女の子と『したい』だなんて、俺はそんな事を教えた覚えはないぞルーイン!!」
ルーインの頭頂部に鋭く平手が叩きつけられた。
「痛ッ!? 違うっつってんだろ!! つか平手でタンコブ作るんじゃねぇ!!」
「じゃあ何だ! メイドの女の子と何だって言うんだ!!」
「倉庫でぶっ倒れてんだよ!!」
「お前は一体何をしたんだあああ!!」
アヒャントに内容を説明するのに要した時間は1時間を越えた。
「何だ、そういう事だったのか…。 とにかくその子の様子を見てみないと分からないな」
とは言われたものの、死体(と決まったわけではないが)を見ればまた騒がれるのだろう。
ルーインは「俺一人で平気だから」と釘を刺し、先程の倉庫へ戻る事にした。


「しっかしなぁ、よく考えてみりゃあ死体ならとっくに腐敗が始まっててもおかしくねぇよな…」
倉庫に戻ったルーインは恐る恐るメイドの少女―やけに軽かったのは体躯が小さかったからだろうか―を運び出し、埃を落とした。
そして、少女の首筋に「あるもの」を見つけると
「ははっ、何だそういう事だったのか。 しかしあんの野郎、また余計なモンを……」
安堵から一転、すぐに怒りの矛を構えていた。
腰に下げていた携帯トランシーバーを乱暴に掴み上げると、3つのボタンの真ん中を押した。
「こちらルーイン」
『あれ、どうしたの?』
何か面倒なことでもあった?
先程の悲鳴が聞こえていなかったのだろうか、パースは何事も無かったかのような聞き方をした。
刹那、ルーインは怒号を浴びせた。
「倉庫にメイドロボットを放置してんじゃねえぞ!! ビビったじゃねぇか!!」
『メイドロボ? もしかしてロボ子さんのこと?』
そんな怒号などお構いなしに続けるパースに、ルーインは若干呆れた。
さっさと事の顛末を説明すると、トランシーバーの電源を切った。
しばらくの静寂の後、ルーインはメイドロボット―ロボ子さんの首筋に触れた。
そこには、「ON/OFF」と書かれたスイッチがあった。
ゆっくりと「ON」にしてみるが、全く反応が無い。
結局ポンコツはポンコツか、こんだけ古臭い所に置いてあったら故障もするわな。
そう思ったルーインは、再び掃除を再開しようと一歩踏み出し―

―ズダァン!!

「痛ってぇ…、何だってんだよ畜生!!」
何かが足に引っ掛かり、顔面から転倒してしまった。
ヒリヒリする頬をさすりながら目線を下げてみると、1本の黒いコードが見えた。
「……電源コード? まさか!?」
コードを掴んで手繰り寄せていくと、終着点には
「………やっぱりアンタか」
目を閉じたまま動かない―もとい、電源が入らないので動けない―ロボ子さんが座っていた。
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