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「お礼は3倍返し。(似山)」


月に何度も会えるわけじゃない。
共に夜を過ごす事もごく稀のこと。

僅かな時間を、二人は共有する。

夜更けに訪ねても、日付を跨いで直に帰らなければならないこともある。
それでも、喜びと安らぎが得られる。

時間の長さに反比例する、親密で濃厚な時間。


「旦那…さん?」

何時ものように、灯りの無い屋敷に訪れると、中庭に面した縁側に座った、その人が待っていた。
月明かりに照らされ、青白い光に包まれている。
その人が気配を察したのか、俯いていた顔を上げると、すうっと右手を差し出してきた。

「坊や」
「はい」
「おいで」
「…はい」

近寄って、差し出された手をとる。

冷たい手だった。
力強い手だった。

そのまま身を引かれ、腕の中に包まれた。
抱きしめられる、暖かさを知っている。

「坊や」
「はい」

だから、自分も腕を伸ばしその人の背中に手を添える。

どちらかともなく、溜息が零れた。

安堵の溜息と共に、二人の身体が柔らかく絡まる。


「来てくれて、ありがとうねェ」
「俺の方こそ」
「ん?」
「待っていてくれて、ありがとうございます」
「俺は何時でも、坊やが来るのを待っているよ」
「旦那さん…」

嬉しいと、思った。
会いたかったと、待っていてくれる人。

ただの二人。
名前も、素性も無い。

二人だけの、世界がある。



「今夜は、朝まで一緒に居ます」
「良いのかい?、坊やの帰りを待っている人が居るんだろう?」
「はい。でも…」
無断外泊の言い訳なら、慣れている。
それも仕事の内だと、後ろめたさはあるものの自身を納得させる。
それより、今は。
会いたいと思っているのは、貴方だけではないのだと、伝えたい。
「俺も、貴方に…会いたいと、思っていますから」
「…坊や?」
「はい?」
「朝までって…意味、分かってるかい?」
「もちろん。そのつもりですよ?」
抱き合い、肩口に預けていた頭を動かし、耳元に唇を押せて呟く。

貴方が、欲しい、と。


時には、時間の長さに比例する、親密で濃厚な時間を。


<おわり>


コレでも一応、ホワイトデー。山崎視点。
前回の似山も、山崎の誘い受けだった気がする…。

次は似蔵さん視点で似山を書いてみたい。

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