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「相合傘は濡れるもの。(似万)」

雨が降る。
梅雨の雨は特に濡れる気がする。

身体に纏わりつく湿度が、更に濡れた感触を増徴させる。

そして、蒸した空気は時折生々しい匂いも運んでくる。
その匂いが、気配と血の匂いを消してくれる。

似蔵は、そんな季節が嫌いではなかった。
たとえ何時間も一人で待ち惚けをする羽目になろうとも。

繁華街の一角にある公園で、ベンチに座ったまま似蔵は空を仰いだ。
顔を濡らすのは、冷たくない雨。
雨は、止みそうに無かった。
「河上…」
待ち人の名を、ポツリと呟いた。


「帰ったでござる」
「おかえりっス、万斉先輩」
鬼兵隊のアジトでもある機動戦艦に、万斉は乗り込んだ。それにまた子が元気に出迎える。
表の仕事と裏の仕事と、忙しい万斉が船に乗るのは実はそれほど多くは無い。
それでも定期的に訪れるのは、隊内の事情も把握し提督である高杉との疎通も必要不可欠だからだった。
更に今は、もっと重要な意味を持つようになった。

「ところで、似蔵さんはどちらに?」
「あ」
武市からの問いに、万斉は反応した。
暫しも沈黙が一同を包む。
「…まさか、置いて来たんですか貴方…」
「迎え…忘れたでござる」
表の仕事で予定が押してしまった万斉は、船に戻る事を念頭に置いて動いた為に、同じように裏の仕事で船を降りている似蔵を迎えに行って連れて来る事を、すっかり失念していたのである。
慌てて腕時計を見れば、待ち合わせの約束の時間から既に数時間が過ぎている。
見る見るうちに、万斉の顔が自身の着ているコートと同じくらいに青褪めていった。
「…拙者とした事が、なんという失態!」
「早く連れて来て下さい。一人で放っておいたら何をするか分からない人ですよ」
「別にイイじゃないっスか、あんなヤツ。雨の中でも待たせとけばイイっス」
心配そうに話す武市に対して、また子は素っ気無く無責任に言い放つ。
「そうはいかぬ!」
言うが早いか、万斉は慌てて船を飛び出した。
雨はまだ降っていた。


「似蔵殿!」
「やっと来たねェ」
万斉は傘を手に待ち合わせの場所へ、似蔵の座るベンチまで駆け寄った。
既に日付も変わって数時間。二人の居る公園とその周りには人の気配は無かった。それでなくとも、一日降り続く雨に人々は外に出歩く事も少なくなる。
だからこそ、仕事がやりやすいとも言えた。
「すまぬ!、迎えが遅れてしもうた」
「そうさねェ、大分待ったよ。俺はてっきり、忘れられたと思ってたよ」
「う…、面目次第も無い。素直に詫びるでござる」
「やっぱり、忘れてたのかい…アンタ」
似蔵は呆れたように溜息を零した。

フワリ。

似蔵の濡れた頬に、柔らかいものが触れた。
「こんなに濡れてしもうて…、すまぬ似蔵殿」
万斉はハンカチを取り出し、似蔵の濡れた顔や髪を拭き取りながら、申し訳無さそうに言った。
気が付けば、先程まで降っていた雨が身体を濡らさない。
似蔵は気配を探ると、万斉の差している傘が自身の上を覆い雨を遮っていた。
傘を傾けた分、今度は万斉の身体が雨に濡れ始めているのが分かった。
「身体は冷えておらぬか?」
「いや、平気さね」
「濡れるのであれば、場所を変えても良かったものを」
「此処で待ってろって言ったのはアンタだよ」
「まったく...頑固でござるな」
「アンタはいい加減過ぎるんだよ」
ハンカチを持つ万斉の手を掴むと、似蔵は立ち上がった。
「遅れてしもうて…すまぬ」
「いいよ。雨、嫌いじゃないからねェ」
それでもまだ濡れたところを拭き取ろうとする万斉に、似蔵の心に暖かいものが芽生える。

「船に戻って直に着替え、あっ?!」
「やっぱり、冷えちまったよ…」
万斉の身体を抱き締め、耳元に囁いた。
濡れた雨の匂いが、万斉をも包み込む。傘にあたる雨の音が、次第に二人の心臓の音と重なって行くように鼓動が早くなる。
「遅れちまった詫びでも、して欲しいもんだねェ…河上」
「似蔵、殿…」
「船まで、我慢できそうに無いよ」
更に強く抱き締められ、万斉は似蔵の求めているものを察した。
「承知、詫びるでござるよ」
そう言って、似蔵の濡れた髪を拭きながら、顔を近づけ唇を重ねた。

「とは言え、此処では御免こうむる」
「そうかい?、たまには外でも」
「濡れるだけならまだしも、汚れるのはヤでござる!」
「今更だろうよ?。その身体、穴の奥まで俺に汚されちまってるし」
「それとコレとは別でござる!。それに!、拙者はぬしに汚されたなどとは思うておらぬ!。アレもコレも全て合意の上」
「…あぁ、そうだったねェ、ゴメンよ。そう怒りなさんな、ちょっとした意趣返しさね」
「…悪趣味でござる」
「それより、ほら。何処でスルんだい?。早く決めないと此処で押し倒しちまうよ」
「少しは辛抱というものを学習せい!」

一つの傘を二人で。
肩を寄せ合い、雨を逃れ世間から逃れ、二人は歓楽街の灯火の中へ消えていった。



歓楽街=ラブホ。
某携帯CMの相合傘バージョンで禿げ萌えした結果の妄想。
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