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「もしも世界が夢ならば(呂呂)」
雪が舞う。

城壁から見下ろす、白い景色に点在する黒い群集。

動き出す白と黒の模様の中で、舞い散る赤。

押し寄せる黒い群衆。
其れを迎え撃つ己もまた、黒い鎧を紅く染める。

振るう刃が切り開く、白い世界に染み渡る黒と赤。

やがて訪れた静寂の中に、たった独りで立つ黒い鎧。

足りない。足りない。
戦いを求める咆哮。

動く影を求め歩みを進める、黒い亡骸を踏み分ける。

ガリッ

踏み潰した刃の破片。
その足元に広がる紅い染みは、既に錆びた赤い色へと変わり始めている。
赤い流れの先を視線で追うと、雪と同化しような白い人肌。

白い地面に黒い髪を広げるように横たわる、己が討ち取った武将の成れの果て。

亡骸の名を知っている。

出遭ったことは無いはずなのに、知っているその人の名。

「呂蒙」

返事は無い、その身体に降り積もる雪がやがて全てを無に帰す。

もう一度、名を呼ぼうとした時に世界が暗転した。



「−−−ふ?、呂布?」
「りょ、もう…?」
「どうした?」

目を開ければ、そこは見慣れた天井を背後に見慣れた顔が写る。
心配そうに覗き込んでくる、その人の名を呼ぶと返事が帰ってきた。

「夢…か?」
「怖い夢でも見たのか?、うなされていたぞ」
「夢…そうか、夢か」
「呂布?」
腕を伸ばし心配そうに声をかける呂蒙を抱き寄せ、胸に抱きこみゆっくりと深呼吸をした。
此処に居る。ちゃんと生きている。
呂布は確かめるように、手を動かし呂蒙の身体の輪郭をなぞってゆく。
「おい、くすぐったいぞ」
「そうか、すぐくったいか。それはいい、生きている証拠だ」
「当たり前だ、俺はまだ死人ではないぞ」
大きな掌が身体を這い回る、時折縋り付くように抱きしめる腕に強さに困惑しながらも、呂布のしたいようにさせた。
何度も名を呼ぶ、確かめる様に口にする。
「安心しろ、俺は此処に居る」
「ああ、確かに俺の傍にいる」
夜の闇の中、互いの顔をおぼろげながら確かめ合える。そして触れる確かな温もりに、呂布はようやく安堵したのか腕を解いた。

そして、先程の夢を語った。

戦場で起きたかも知れない、命のやり取り。

討ち取った呂布。
討ち取られた呂蒙。

決してある筈は無かったと、言い切れない乱れた世の理の中で、二人は生きてきた。

「俺は、お前を殺すだろう」
「そうだな、俺も国の為、仲間の為にお前を斬るだろう。そういう世の中だ、致し方あるまい」
「だが今は、俺には出来ん。今のお前を斬ることは」
「今だけではなく、未来も、出来れば斬られたくはないものだな」
半身を起こした呂蒙の腰にゆるく腕を回す呂布は、そのまま太腿に頭を寝せ瞼を閉じる。
その仕草が、何処となく子供っぽいと思う。しがみついて離さない、離れることを恐れる子供。
感じる重さに、愛おしさが湧く。
求められて嬉しいと思う、存在を傍に求められる。




「呂布、不安なら確かめるか?」
黒く艶のある髪を撫でながら、優しく誘う。
その声に視線を上げれば、見慣れた笑顔が其処にあった。
「今夜は、気が済むまで付き合おう」
「…誘ったからには、覚悟は出来ているな、呂蒙」
「勿論だ、俺も不安のまま眠るのは嫌だからな」
「まったく…、俺をその気にさせるのが上手な奴だ」
「確かめたいのは、お前だけではないぞ」

優しく引き込まれる。絡み合う身体に伝わるぬくもりは現実。
愛する者が確かに存在する、安堵と喜び。

夢の中でも、不確かな未来の中でも、あり得ないとは言い切れない理がある。

何時か訪れるであろう「死」という別れ。
こんな時代だからこそ、今を精一杯生きてゆきたい。
後悔も過ちも、死んだ後に誰かが決めればいい。

それよりも、今夜も目の前で誘う愛おしい身体に溺れたい。



(無双5の呂布伝ムービーを見て、あのラストも切ないと言えば切ない)
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