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「城の中の日常茶飯事(呂呂)」
城の復興も進み、運河沿いの船着場には交易船の行き来も多くなった。

船から陸揚げした荷物を一通り調べるのも、副官の仕事。
本格的な城の復興を始めた頃は、戦う事すなわち兵役に関わる仕事しか執ろうとしなかった呂布も、太守の呂蒙に釣られたか今では交易品の選定まで仕切るようになっていた。

元々珍しい物や余興品に興味を示した呂布は、時々その突拍子も無い趣向を見せては呂蒙を困らせている。

今日も、呂布の手元には珍しい逸品が届く。

「惚れ薬、だと?」

荷揚げ場を仕切る貿易商が、珍しいものが入ったと笑顔で手渡してきた。
薬師の注文した薬と共に、試供品として付いてきたらしい。
所謂ちょっとした粗品。取引先の薬師なりの遊び心らしい。

掌に収まる小さな壷は、それなりに良い品らしく中身が空になれば別の薬を入れて持ち歩ける。

貰って損はないからと仕入れてきたらしいが、実際に使ってみようとすると相手を考える。

呂布は周りを見渡すと、お目当ての相手を見つけて大声で呼びつけた。

「呂蒙!、珍しい品が入ったぞ!、お前も見定めろ!」
「珍しい物?、分かった!直ぐに行く!」
少し離れた場所に詰まれた荷物の山、その中身を一つ一つ興味深そうに調べていた呂蒙は、呂布が言う珍しい物に興味を持ち直ぐにやって来た。

そして手渡された、小奇麗な小さな壷。

「何だ?。中身は…酒…否、薬か?」
「薬だ、それも惚れ薬らしいぞ」
「ほ…惚れ薬?!、そんな薬があるのか?!」
珍しそうに、手にした壷を眺める呂蒙。
素直に信じてしまったのか、次いでコレをどうしたものかと悩み始めている。

「どうする?、使ってみるか?」
「いや、しかし…」
「俺に」
「…ん?」

悪戯を思いついた顔で、ニヤリと呂布が笑う。
惚れ薬を使う相手として、どうして自分を選ぶのだろう。
薬の壷と呂布の顔を見比べ、呂蒙は突然笑い出した。

「ふ、ふははははははは!、何を言出だすかと思えば呂布よ、今更こんな物に頼る仲でもあるまい!。とうの昔にお前は俺に惚れている、そうだろう?」
「言ってくれる、では俺がお前に使ってやろう」
「それこそ無駄だ、俺の方が先に惚れていたのだぞ。しかし、自信が無いなら使ってみればいい」
「馬鹿も休み休み言いえ、俺がお前に対して自信の持てぬ事など何一つないわ」
「なら、是は不要だ」
呂蒙はよほど面白かったのか、笑い続けたまま手にしていた壷を呂布に返したのだった。
その時に、背伸びをして顔を近づけると、そのまま呂布に口付ける。




一瞬の出来事、しかしその一瞬が確かな絆を繋ぐ積み重ね。

「真面目に検閲を済ませてくれ。明日には新しい交易先から荷が届く予定なのだ、早く仕分けしないと倉庫に入り切らん」
「分かっている、急ぎの品は直ぐに町へ送らせよう。人手が足りんのなら衛兵を集め当たらせる」
「よし、任せた」

真面目に仕事の話をしているが、向かい合って見詰め合っている二人の雰囲気は、側から見れば恋人同士のようで、目にした者の方が気恥ずかしい。

しかし其処は慣れた住人達。
仲の良い太守様と副官様のお陰で今日も平和なのだと、つい温かい目で見守ってしまうのだった。

踵を返し再び仕事に戻る呂蒙の後姿を見送りながら、呂布は口元を押さえつつ満足そうに笑う。
そして、この城の太守に「不要」と言われてしまった品物を貿易商に返した。

「是は返品だ」

直ぐ傍で一部始終を見ていた貿易商。
納得の返品理由だった。


(イチャイチャするのは日常茶飯事、仲良きことは平和なことかな)
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