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「触れ合う義務(呂呂)」
仕事の合間の楽しみ。
呂蒙にとっては、それは書物を読むこと。

執務を執る行政府の目の前に建てられた学問所。過去の兵法所や貴重な文献など、取り寄せた書物は城に仕える文官だけではなく、希望があれば町の民にも自由に目にすることができた。
それは「勉学の向上に身分はない」という、太守呂蒙の意向だった。

城の復興と共に増えた竹簡の並んだ棚を見上げ、呂蒙は満足そうに笑みを浮かべる。
さて、今日はどれを読もうかと、棚に手を伸ばしたとき背後から影が覆った。

「相変らずだな、呂蒙」
「呂布、お前も何か読むか?」
「くだらん文字の羅列に興味はない」
「…俺が読んでやってもよいぞ?」
「貴様…俺をなんだと思っている…」

呂蒙より頭一つ大きな呂布の影が、更に迫ってくる。そうしているうちに呂布の身体と棚の間に挟まれ、呂蒙の身動きが取れなくなる。
振り返った身体を押され、棚に背中がつく。肩を掴む呂布の手。

「どうした?」
「動くな」
「ん?!」
見上げた顔に触れる生暖かい感触。唇が触れ合っている。
突然のことに呂蒙は慌てて顔を背け、呂布から離れようとした。しかし動きを塞ぐように肩に掛かった手に力が篭り背後の棚に押し付けられる。
「いきなり何をする!、こんな所で…こんな」
「約束だ、何時如何なる時も、俺の自由にしてもよいと」
「それは、そうだが…」
「俺はお前との約束を守り義務を果たしている、此れは当然の要求だが?」
「うっ…」
不敵な笑みを浮かべ、再び顔が近づき触れ合う唇。
困惑したまま、呂蒙は受け入れるしかなかった。

此れは義務なのだ、と。自身に言い聞かせながら耐えるしかない。


呂蒙がこの居城に太守として赴いた時、そこには既に呂布が居た。
当然呂布は抵抗した。人の下に仕えるなど持っての外、廃墟寸前の城を辛うじて救っていたのは呂布だった。
しかし、城の更なる復興と「人中の呂布」と畏怖された鬼神の存命が他国に知れ渡れば、新たな混乱の火を燻ぶらせかねない。そう懸念した呂蒙は、副官として城内に留まる様に説得したのだった。

説得には丸一晩掛かった。
もちろん口答で話し合うだけではなかったが、流血沙汰が功をもたらしたのか、翌日、交渉は成立した。

その時、呂布から出された条件が、今のような状態。

「…何を考えている?」
「何も」
「そうか…」

されるがまま無反応の呂蒙に、静かに問いかける。
目を伏せ、受け入れるだけの表情は覆われた影ともあいまって暗い。
情人の様な甘い艶のある雰囲気とは言い難い、二人の間には何一つ通じ合っているものが無い。
それでも、触れ合う感触は現実味だけをもたらす。

「呂蒙」
名を呼ばれ、再び顔を上げる。目を伏せたまま、待つ。
「----」
「え?」
呂布が何か呟いた。聞き逃した言葉を探る前に口付けられた。
開かれた口内に潜入する舌が、何かを求めている。
そんな気がしたのは、今までの優し過ぎる触れ方だった。
思わず答えていた。その舌に。

途端に激しくる口付け。深く熱い。
ただ受け入れる身でしかなかった呂蒙も、この口付けに何かが満たされてゆく気がしていた。

求めてたものが得られ、満足したように呂布は離れた。

「は…ぁ」
「続きは、夜にな」
「呂布…お前は…」
何故、と問い質そうとする前に背を向け立ち去る呂布に、その後の言葉をかけられなかった。
現れたときと同じ様に、立ち去るときも唐突な呂布の行動。
振り回されていると感じながらも、拒否できない自分自身。

約束という口実。

その本心に隠した、本当に求めているものが今の様子で垣間見れた。

うな垂れる様に、背中が棚に凭れ掛かる。
長い髪がはらりと動き顔を追う。髪が触れた頬から伝わる甘い痺れにも似た感覚。
高揚した顔が朱に染まってゆくのが、自分でも分かるほどに熱が沸く。

つい先程までの熱い口付けに濡れた口元を手で覆い隠しながら、その場に崩れるようにしゃがみ込んだ。

呂布が何かを求めていると感じたのは、自分自身も何かを求めていたからではないかと。
受け入れるだけの関係から、他の何かを得たいと願っているのは。

「俺の方、なのか…?」

違うと否定する心、そう願う容認する心。


分からない、分からない。
その答えを記した書物は、此処には無い。


(まだ居城復興初期の呂呂の関係。愛情は無くても肉体関係はあり)
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